『舞台の裏で輝くもの』
kuroeru
第一話 黒衣の再会
もう三年になる。
娘――凛が、光の中から姿を消してから。
黒瀬紫苑は、ガラス張りの会議室で窓の外を見つめていた。
かつて「天才」と呼ばれた少女の面影は、もうそこにはない。
eスポーツ世界大会優勝。ダンスの舞台で喝采。澄んだ歌声は観客を泣かせた。
だが一度の失敗、一度の炎上で、すべては崩れ去った。
歓声は罵声へ。称賛は嘲笑へ。
娘は光に焼かれ、三年間、影に沈んでいた。
「……でも、私は諦めない」
紫苑は机に置かれた書類に目を落とす。
そこには三人の少女の顔写真。
天城明日香――無邪気に笑う太陽。
篠宮天音――繊細な歌姫。
白雪透花――誇り高きゲーマー。
いずれも才能を秘めながら、不安定で、折れてしまいそうな子たち。
だからこそ――凛と出会わせたい。
彼女たちを導くうちに、凛もまた歩き出せると信じて。
会議室のドアが開く音がした。
黒瀬凛が姿を現す。
「……呼んだ?」
紫苑は微笑み、書類を差し出した。
「新しいユニットよ。名前は《Stella Nova》。この子たちを――支えてほしい」
凛は無言で書類に目を通す。
宣材写真の笑顔が、どこか頼りなく見えた。
三年前の自分のように。
「……私には、できない」
紫苑は静かに首を振る。
「できるわ。あなたにしかできない」
凛の手が、かすかに震えた。
数日後、事務所のスタジオ。
「わぁ! 本当にかっこいいお姉さんだ!」
明日香が勢いよく飛びつく。
「……し、篠宮天音です。よ、よろしくお願いします」
天音は小さな声で頭を下げた。
「……白雪透花。別に、あんたがいなくてもやれるから」
透花は腕を組み、視線を逸らす。
三人三様。
明るく振る舞う子、怯えながらも真剣な子、強がる子。
その姿に、凛の胸の奥で止まっていた時計が、ほんの少しだけ動いた気がした。
To Be Continued...
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