第二章:君の名前を、もう一度

第二章:君の名前を、もう一度

「遥、って名前なんだよね」

俺がそう言うと、彼女はきょとんと目を丸くした。

「……どうして、知ってるの?」

「去年、君が教えてくれたから」

微笑むと、遥は困ったように笑った。

「そんなはずないよ。私、この駅に来るの、初めてだと思ってた」

いつもそうだ。

彼女の中には、俺との記憶が残らない。

初めて会った顔で、何度も冬を重ねてきた。

けれど、不思議なことがひとつだけある。

遥は、俺と一緒に過ごした日と同じ服、同じマフラーを毎年身につけている。

赤いマフラー。毛糸の編み目は少し緩く、左端の糸がほどけかけている。

「そのマフラー、よく似合ってるよ」

そう言うと、遥はそれを両手でそっと握った。

「ありがとう。これ、大切なものみたいな気がして……いつも身につけちゃうんだ」

記憶はないのに、心が覚えている。

そんな遥の言葉が、胸に刺さる。

俺は、彼女とまた一から始めることを決めた。

今年も、ひと冬だけでいい。

——君に、もう一度、恋をする。

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