君のマフラー

@black_wolf_1

第一章:冬のはじまり

第一章:冬のはじまり

今年、冬が来るのが少し怖かった。

風の匂いが冷たくなるたびに、胸がざわつく。

あの駅前のロータリーに、また彼女が現れるんじゃないかと思ってしまうから。

12月の初雪が降った日の夕方。

やっぱり——彼女はいた。

赤いマフラーを巻いた、黒髪の女の子。

白い息を吐きながら、どこかを見つめて立っている。

まるで、誰かを待っているように。

俺はゆっくり近づいて、声をかけた。

「……また、会えたね」

彼女は驚いたように目を見開いた。

でも、すぐに曇った笑みを浮かべて言う。

「ごめんなさい。どなた……ですか?」

——今年も、記憶は残っていない。

もう、これで5年目だ。

毎年冬になると、彼女はこの駅に現れる。

名前も歳も変わらず、だけど俺のことは毎回忘れている。

俺だけが、彼女との記憶を積み重ねていく。

今年もきっと、また始まるんだ。

ひと冬だけの恋が

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る