12 他人の恋を応援する

「ちょっといいかな? 青柳」

「うん? ああ、いいよ。どうした?」


 昼休み、今度は他のクラスメイトが俺に声をかけた。

 高校生になってもう一ヶ月以上経ったけど、俺はまだ友達を作っていない。男同士でできることもいろいろあると思うけど、正直いてもいなくてもどうでもいいし、このままでも問題ないからさ。ずっとはなびに集中していた。


 そして前にもそうだったけど、俺に声をかける人はほとんどはなびに興味を持っているから、その話をするのが面倒臭くて避けるのもある。ちらっとはなびの方を見るその視線、俺がはなびだったらきっと疲れると思う。マジ面倒臭い。


「えっと……、ああ」

「あっ、俺の名前知らないのか……」

「ごめん」

「市川、市川颯太いちかわそうただよ。クラスメイトの名前くらい覚えてくれよ」

「うん、それで市川はなぜ俺に声をかけたんだ?」

「あのさ、ちょっと……。ううん……、青柳の友達に興味があるっていうか」

「そう?」

「あのギャルさ」


 不思議、今度ははなびじゃなかった。

 ギャルなら佐藤のことか。まあ、佐藤も可愛い女の子だと思う。

 ちょっと怖いけどな。

 とはいえ、俺たちそんなに仲良く見えたのか? からかわれたことしか思い出せないけど、市川は佐藤に興味があったんだ。そういうことなら俺じゃなくて本人に直接話した方が効率的だと思うけど、どうしていつも俺なんだろうな。


 それにしても佐藤か。


「頼む! 青柳! 彼氏いるのかどうか声をかけてくれ! それだけでいいよ!」

「別にいいけど、万が一佐藤に彼氏がいたらどうする?」

「その時は諦める」

「いいね、行ってくるからちょっと待ってくれ。今頃はなびたちと一緒にいるはずだから」

「はなびたち……」

「どうした?」

「なんでもない。頼むぞ! 青柳」

「…………」


 ……


「あっ、湊くんだぁ! 私に会いに来たの〜? えへへっ」

「あっ。いや、佐藤に用事があって」

「…………」

「このバカ……」


 なぜか、佐藤に背中を叩かれた。


「えっ? お、俺なんで叩かれたんだ?」

「そういう時ははなびに会いに来たよでしょ!?」

「ああ、はなびのことはもちろん好きだよ? でも、ここに来たのはクラスメイトに頼まれたことがあったからだ。誤解しないで」

「あっ、そうなの? ごめん」

「そしてはなびもそんな顔しないで……。頼まれたことを言いに来ただけだから」

「う、うん……」


 ずっと下を向いてるけど、悪いことをしたような気がしてちょっとつらい。

 でも、市川に言われたことを無視するわけにはいかないからさ。

 そのままそっとはなびの頭に手を乗せた。


「話がある。場所を変えよう、佐藤」

「うん」


 正直こういうの面倒臭いけど、市川は無理だったらあっさりと諦めるタイプの人だから問題ないと思った。それに相手があの佐藤だからさ。はなびじゃないなら俺もそこまで警戒する必要はない。


 今更だけど、佐藤のことを好きって言う人俺初めて見た。

 綺麗な人だけど、ちょっと怖いのが問題。中学生の頃にもそうだったよな。

 三人の間で一番身長高いし、佐藤と目が合った時、普通にビビってしまうからさ。みんな……。


「で、私に言いたいことは何?」

「誤解しないで最後までちゃんと聞いてくれ、ちゃんと」

「分かった」

「彼氏いる?」

「お前! はなびと学校でイチャイチャしてるくせに、私にそんなことを聞くのか!?」

「だから、最後までちゃんと聞いてくれって言っただろ? 佐藤」

「あっ、ごめん」


 まあ、佐藤ははなびのこと可愛がってるからあの反応が出るのも無理ではない。

 ちゃんと聞いてよ……。


「落ち着いて、そしているのか? 彼氏」

「い、いないけどぉ」

「ならいい。念の為に言っておくけど、俺は佐藤に興味ねぇからな! これは頼まれたことだから……」

「それは傷つくかも」

「いや、なんでそうなる!?」

「冗談。で、それ誰に頼まれたの?」


 そこで俺はすぐ答えられなかった。

 もし市川ってことを言ったらどうなるんだろう。やっぱり言えない。


「今は言えないね。一応ありがとう、ちゃんと伝えておくから」

「もしかして……、青柳くん私のこと好きだったり」

「そう見える?」

「見えない」

「うん」

「分かったよ……。気になるけど、私の代わりにあの人に伝えてくれない?」

「うん、何?」

「私は直接私の前で言わない男子は大嫌い」


 あ、終わったな。市川。


「分かった。そう伝えておく」

「そしてはなびといつ付き合うの?」

「そ、そんなことできるわけないだろ!? ただ、一緒にいるだけだ」

「好きって言っておいて、そんなことできないって言うの?」

「えっ? 俺、好きって言ったの———っ」


 また背中を叩かれた。

 いつそんなことを言ったんだろう。そういえば、中学生の頃からずっと佐藤に背中を叩かれたような気がするけど……。よくないことを思い出してしまった。


「はあ……。まったく、早く戻って」

「はい……」


 ……


 教室に戻ってきてすぐ市川に声をかけた。


「いないって、市川」

「そうか! よかった……」

「あのさ、答えたくないなら答えなくてもいいけど、佐藤のどこが好きなんだ」

「可愛い、えへへっ。あははっ」

「そうか」


 聞いて損した。


「ふふふっ、いないか。いないんだ。いいな」

「あ、そうだ。それとこれは佐藤に頼まれたことだけどさ」

「うん!」

「直接自分の前で話さない男大嫌いって」

「ま、マジかぁ!!!!! ど、どうすればいいんだ!? 俺は、一体どうすればいいんだ! 青柳!」


 そんなことを言われても俺にできることは何もないし、一応彼氏がいないってことが分かったからこれからは市川が頑張らないといけない。恋ってそういうことだからさ、自分が積極的にアピールしないと何も得られない。俺に頼ってもいつか佐藤の前で直接それを言う日が来ると思う。勇気を出して自分で解決するんだ。


 あれ?


 ふとはなびのことを思い出してしまう。積極的か。


「湊くん〜」


 すると、後ろから聞こえてくるはなびの声。

 それにびっくりしてすぐ振り向いたらみんなが揃っていた。いつの間に!?


「はなび?」

「あれ? 市川くんだね、二人仲が良かったの?」

「お、俺たちのこと? ああ」


 佐藤を見て慌てている市川、ここで友達って言ったら少しは仲良くなれるかもしれない。誰かのためにこんなことをするのは初めてだけど、声めっちゃ震えているし、ちらっと俺の方を見ているから仕方がなかった。


「そう、友達」

「へえ、そうなんだ。湊くんに友達ができるなんて、いいね!」

「よ、よろしく! みんな。そして……、ちょっと! 話があるから青柳」

「えっ?」


 そのまま俺を人けのないところに連れていく市川、なんだろうな。


「うわぁ、やべぇ」

「何が?」

「見たか? 佐藤、めっちゃ可愛かったよ?」


 俺は佐藤に睨まれたような気がするけど……、一応黙っていた。


「良かったな。じゃあ、その勢いで仲良くなれば? さっき友達って言ったし」

「ありがとう! マジで! 正直佐藤のこといつも遠いところで見ていたからさ。さっき近いところで見た時死ぬかと思った。一瞬心臓が止まったような気がしたぞ」

「大袈裟だな。まあ、それほど好きってことだから分からないとは言わない」

「おかげで一歩踏み出したような気がする」

「良かったな」


 一方、二人がいない教室ではなびが落ち込んでいた。

 ずっとため息をつく。


「もっと話がしたかったのに、どうして行っちゃうんだよぉ〜。もう〜」

「でも、好きって言われたからいいんじゃない? 好きって言われたことないって言ったでしょ?」

「そ、それはそうだけど! こっそりそれについて聞こうとしたら市川くんに取られた!」

「それは放課後に聞いてもいいじゃん」

「ひん……。それより凪沙ちゃんさっきから何も言わないね。どうしたの?」

「うん? あっ、いや。なんでもない」

「そうだ。さっき湊くんと何話したの?」

「それは内緒だよ」

「ええ!!! なんで!!! 教えてよぉ、凪沙ちゃん!」

「無理〜」


 そう言いながら教室に入ってくる颯太をちらっと見る凪沙だった。


「…………」

「ふーん、そういうことなんだ」

「何!? すいちゃん! 教えて!」

「教えなーい!」

「ええ!? なんで……」

「ふふっ」

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