第4話 第二王子のアダム

あれから1週間たった今日。


卒業パーティーの翌日は、私はもう周りの皆様の注目度ナンバーワンでした。

好奇の目、哀れに思う視線、コソコソ話す噂話。


でも、私は強いから平気。

「なんの話しをされているのかしら?」

そう話しかけると

「今日はお天気がよろしいわねと話しておりましたよ」なんて言ってますけど、雨降ってましたよ。いつの話なんでしょ?


好奇の目や、哀れに思う視線にはこうよ。

私はゆっくり微笑みながら歩くわ。

何でもありませんよー、何かあって?

そんなふうに歩くわ。

あ、でも、それはそれで痛かったかしら?

そんなこと、どうでもいいわね。


あれからマーティン様とはどうなったかですって?

婚約者から婚約者になっただけ。

婚約破棄はすんなり出来ましたの。

だって、マーティン様からの一方的な婚約破棄でしたもの。

有責もあちら。私は慰謝料がっぽり。


ただ、知りたいのは1つ。

「ボクの婚約者に愛を込めて」ってマーティン様の代筆をしていた方がどなたなのか、それが気になってますの。


だってマーティン様はあまり字が綺麗ではありませんでしたもの。あの「ボクの婚約者に愛を込めて」と書かれた方はどなただったのかしら?


何年もその正体が分からないまま。


あの字は凄く綺麗でしたの。

私、あのようにキレイな字を書きたくて、あの字を何度も何度も真似したものだわ。

おかげで、もうその字の特徴も覚えてしまったもの。そしてその字を真似ることもできますの。変態ではありません。

字を真似ただけですから。


けど、不思議なんです。のマーティン様からメッセージを頂いたあとから、あのメッセージの方からのメッセージが来なくなったのです。それは少し寂しかったです。


急にあの字を書く方の事を思い出しましたわ、どうしてかしら?

きっと、目の前で黒板消しをしているクラスメイトを何となく眺めていたからだわ。


教室で私の机の前に人が来たのを認識するまで、あの字のことを思い出していたの。


「なんだ?随分と傷心なんだな、ぼーっとして。」


「そんなことありませんわ。私に構うよりあなたの婚約者様をお屋敷までお送りしては?」


「冷たいな、これが従兄弟になる王子様にする態度なのか?」


そう、この方は、この国の第二王子のアダム様。アダム様のお父様はこの国の王様で、王様と私の母が姉弟。つまり私たちはいとこになるのよ。


母が父に惚れて、絶対に父と結婚するんだから、結婚できないなら私は修道院に入るわ。私にはこの人しかいないのって騒いで、王女を訳もなく修道院に入れる訳にも行かず、おじい様、つまり王様は私の両親の結婚を許したそうよ。


当時は伯爵位の爵位でしたけど、王女が輿入れするからと、お父様は侯爵にされたようよ。その逆玉なお父様とお母様の馴れ初めは、今でも「身分違いの真実の愛」なんていう愛劇がどうやら人気みたい。


人気、見たい?見たくないわ。

だって、わたくしのお父様とお母様の劇よ。恥ずかしすぎるじゃない。


お母様は、恥ずかしがって嫌がるお父様を泣き落として、自分たちがモデルの「身分違いの真実の愛」を観に行くのよ。

恥ずかしいって思わないのかしら?

違うわね、恥ずかしいと思ったら観に行かないもの。


そして帰ってきたら「あのセリフはもっと情熱的に」とか「あの俳優さんはもう少し演技のお勉強が必要だわ。顔はお父様の若い頃にそっくりよ」とお茶を飲みながらの評論会が毎回。疲れるの。


あら、話がズレたわね。


「王子様への態度ではないわね、いとこへの態度だったわ、ごめんなさいね」


「まあ、許してやるよ」


あら?私に木登り負けて泣きじゃくっていたあの子が、今回上から目線で物言うの?


あら、ごめんなさい。あなたは王子様で、私はただの侯爵令嬢だったわね。


細めて見ていた視線を普通に戻すわ。


「許してくれて、ありがとうございます、王子様」


自分で自分の事を王子様って言うくせに、私が王子様って言うのを嫌がるのよね。

わがままな王子様だわ。


「アダム様っ」


ん?言い直したけどダメでした?

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