君の待つ彼方へ

伊生仁鵜

はじまりにして戻るべきところ

 君がこの世界からいなくなって、それからの歳月を数字で示すことは、それほど大変な作業なんかじゃない。指を折ればいいだけだし、指の本数が足りないわけでもない。ただ、そんなことはあんまり意味がないと思うだけなんだ。

 私は君がいなくなってからの時間を思う。長いといえば長かったし、あっという間といえばそうだ。待ちわびる季節があるわけでなく、それでいて、君には申し訳ないことだけれど、全ての季節が灰色ということもなかった。

 ただ君はいない。

 そして、君のいない時間が過ぎていく、折り重なっていく、積みあがっていく、その時間の全てが、重いとも軽いともつかず、重さも軽さもさして意味もなく、ただ不可逆的という逆回しがないというだけの、時間に対する不思議な実感がある。

 君と共にあった時間の幅は、考えてみれば半年より長く一年には届かなかった。たったそれだけだ。ただ、その時間を味わった後では、もう時間は同じではないんだろうね。それくらいに、君と共にあったあの歳月は私にとってどこまでも特別だった。もし君にとって私の何かが、本当に、本当に他の人間と異なる特別なものであったのならば、私にとって君といたあの歳月が間違いなしに特別だったということと、不ぞろいなシンメトリになるのかもしれない。 それを思うと、私は幸福になれる。

 間違いなしに、私は幸せを実感している。それは君と共にあった時間の全てが私の中を満たしている、ただそれだけの理由として、本当にそうある。

 だから私のこの今というものは、君のいないこの世界のはじまりであり、戻るべきところであり、君に捧げられた、そして捧げられるべき祭壇であり、私は私という環を巡りながら、あらゆる私をここにそしてこの先のここに捧げていこうと思う。

 捧げ終えたその時に、ちょうどいい具合に、私もまた君を追って天翔けるのか、なおドアが開かれる許しが訪れずに留まり続けて、別の新しい宿題を求められるのか、それはわからない。ただ、捧げられるものは捧げ続けよう。

 高い山から、深い谷から、君に何千回も捧げよう。

 高い山の自分、深い谷の自分を何千回も巡って、君へと叫ぼう。

 




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