日本に「赤人」が生まれた話。

@KSGood

第1話

この年、吉川夫婦の間に、赤ん坊が生まれた。文字通り「赤ん坊」なのだ。赤面したような赤さではない。達磨のような赤さだ。助産師は最初何らかの病気か呼吸ができていないだけか考えたが、その赤ん坊は健康体で、遅産ではあるものの、他の赤ん坊と何ら変わらない健康体なのだ。……唯一肌の色を除いては。吉川夫婦を初めとして新生児の2割程に同じ"症状"が見られている。標準より小さかったり、なかなか泣かなかったり…赤い肌の赤ん坊が特別健康体だとか、血液型が同じだとか、共通点はない。あるとすれば両親のどちらかが日本人ということだけだ。その「赤ん坊」達は大きくなり、赤い人と書いて「せきじん」と呼ばれるようになった。白人や黒人、黄色人のように。赤人の扱いについて、世間で議論が行われている。「肌の色が違うだけでしょ?」「呪いでは?」「赤って…鬼じゃん。」

次第に赤人に関して噂や都市伝説、デマが流れるようになった。赤人は感染するウイルスを持っている。とか、赤い肌は風邪のようにうつる。とか、赤人の親は犯罪者だから赤ん坊が血塗られた赤なのだ。……根も葉もない情報に政府は、「赤人が持っているウイルスや細菌などは報告されておらず、共通点も見つかっていない。」と。


吉川夫婦の子どもが15歳になった頃、赤人の少年が殺人をしたと大々的に報じられた。赤人の親は犯罪者だ。という情報がはやく、確実に広まっていった。赤人は差別され、赤人の来店を強く断る店も増えていった。公的機関ではそういうことは無いものの、常に好奇の目に晒され、差別され、疑いの目をかけられ……赤人の立場は悪くなっていくばかりだった。トマトを投げつけられたり、赤いペンキをかけられたりするいじめ、痴漢の冤罪、集団リンチなど。しかも赤人として生まれた子供の8割以上は親元を離れたり、捨てられたり、殺されたりされているのだ。


吉川夫婦の子どもが27歳になった頃、ミナという赤人の女性が日本人男性と結婚した。5年前から細々とだが、赤人差別反対のデモ活動が徐々に大きく広がっている。それでも赤人と日本人との結婚は賛否が分かれており、否定の方が大きかった。


吉川夫婦の子どもが30歳になった頃、赤人と日本人との間に子どもができた。赤みがかってはいるものの、普通の私生児とあまり変わらない肌だった。赤人差別反対デモは街でちらほら見かけるほど広がっていった。それでも否定派は根強くいたのだ。それと同時に赤人に関する宗教が多く見受けられるようになった。赤人を神の示しとする「赤神」という宗教、また赤人を悪魔とする「血の悪魔」という宗教が現れてからだ。


吉川夫婦の子どもが43歳になった頃、赤人初の教師が現れた。今までは人前にでるような仕事は赤人には無理だった。この年の頃には私生児が赤人の割合は3,4割近くまで多くなっていた。赤人として生まれた子どもの7割程が孤児だった。黄色人と黄色人との間でも子どもが生まれるため、捨てられることが多いのだ。

赤人初の教師から、人前にでる仕事を赤人にもできるようになっていった。


吉川夫婦の子どもが47歳になった頃、赤人初の歌手の歌が大ヒットをした。海外の目にも多く触れるようになった。つまり海外からも差別されるようになったのだ。未だに赤い肌は両親のどちらかが日本人の場合のみにしか生まれない。日本人は病気があるのでは?という情報が飛び交っていった。


吉川夫婦の子どもが55歳になった頃、日本人以外にも赤人が生まれるようになった。初めは黒人と黒人の間に生まれた子どもだった。それを白人はよく思わず、やはり汚らわしい血だ。野蛮だと罵るものもいた。しかしその3年後、白人と白人の間にも赤人は生まれるようになった。海外の赤人の運命は悲惨なものだった。赤人は意味もなく発砲されたり、冤罪をかけられたりした。差別など日常茶飯事だったのだ。


吉川夫婦の子どもが60歳になった頃、赤人の認知症患者の受け入れが問題になった。赤人は幼い頃虐められていた者が大半で、泣いたり怒鳴ったりと…赤人のみ認知症患者を受け入れない施設もあり、受け入れていても虐待をする施設もある。


吉川夫婦の子どもが72歳になった頃、日本で赤人初の議員が現れた。日本でも多く赤い肌を見かけるようになり、みんなようやく見慣れたのだ。


吉川夫婦の子どもが75歳になった頃、赤人初の死者が出た。死んだのは吉川夫婦の子どもだった。吉川夫婦の子どもは赤人になった1人目だが、それより先に死ぬ者はいなかった。吉川夫婦の子どもが死んでからは若くに無くなる赤人も、100歳以上まで生きる赤人もいた。

赤人の差別問題は今も残っているが、他の人種問題と同じように考えられるようになったのだ。


[この物語はフィクションです。実在の人物名、地名、団体名等には一切関係ありません。]

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