第一章 たびだち!


「みんなで新橋に行こうよっ!」


 ある日の放課後。

 今日も今日とて女子トイレに集まり、お茶(お茶じゃないですが、おしっこですが)を飲んでいると、部長さんが突然、そんなことを言い出しました。


「ゆある、急になんだ?」


 冷静に尋ねるのは吸香先輩。


「あのねあのね、あたし、おっさんのゲロが飲みたいんだよーっ!」


 対する部長さんは、なにやら興奮気味な口調でそう答えます。


「いやいや、急にそんなこと言われてもワケわかんないですし」呆れ顔で言うのはモンメ先輩です。「ゆある部長、ちゃんと説明してくださいよー」


「あのねモンメちゃん、あたし思うんだよ。おっさんの汚物ってさ、勢いが違わない?」


 ピンッと人差し指を立てて、真面目な顔で言う部長さん。


「たとえばだよ? モンメちゃんってウンコ好きでしょ? 自分のウンコと、おっさんのウンコだったらさ、どっち食べたい?」


 いきなり究極の選択だなあー……と思う私です。

 でもモンメ先輩は、そんなに悩むこともない感じで、


「そりゃ、どっちかっていうとおっさんのですけど。だってクサそうだし」

「でしょでしょ! あたしもそうなの。自分のゲロ舐めるよりは、断然おっさんのゲロ舐めたいんだよねっ! 基本おっさんって胃が弱ってるから、いいゲロ出すんだよー!」


 すると吸香先輩が、ふむ、と腕を組み、


「確かに、痰は特に、中年男性の専売特許のようなところがあるな。私がいくら頑張って絡ませようとも、中年男性の痰の味わい深さには到底およばない」


(……うーん。確かに言われてみれば、私の好きな耳くそも、自分のとか他の女の子のより、汗っかきなおじさんののほうが美味しそうな気はするかも……)


 というのも、耳くそには乾いたものと湿ったものの二種類があるのですが、汗かきの人の耳くそは湿っている傾向にあるのです。そして、湿った耳くそのほうが味が染みていて美味しいんです!(※注・私個人の感想です)

 こうして、私含め全員が、おじさんの汚物に対してほんのり思いをはせていると――、


「……おっさんのおしっこは、糖尿とか血尿とか、バラエティ豊かですごい」


 奥の個室にいるイバリ先輩の声が、女子トイレに凛と響き渡りました。

 なんだか、ものすごい説得力と重みを感じる発言です。


「じゃあじゃあ……満場一致ってことでいいのかな?」


 部長さんが、ゆっくりと全員の顔を見回して……ビシッ! と私を指差しました。


「どう? 小々奈ちゃんも、新橋行きに異論はない?」

「は、はいっ、ありません!」

「ということは、おっさんのゲロとウンコと痰とおしっこと耳くそ、全部食べ尽くすってことでいいんだね?」

「はいっ! ……あ、いや、そんなに全部はちょっとあれですが」

「えー? じゃあ、ゲロだけ食べるー?」

「あの、いや、私はできれば耳くそを……」


 なにはともあれ、こうして私たちは新橋行きを決めたのでした。

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