第14話 二人っきりで奥深く、なのじゃ!


「もうさぁ、びっくりだよ! こんな浅い階層にいる敵の量じゃないよ!」


 小部屋に入ると、愚痴をこぼしながらカレンは壁に背を預けて座り込んだ。


「私達、リューちゃんがこのダンジョンにいると思って潜りに来たんだけど、入ってみたらとんでもなく強い魔物がうじゃうじゃいて、とりあえずここに避難していたのよ」

「ミオリちゃんの言う通りです。ねえリューちゃん聞いてください! 私達、リューちゃんに貰ったアイテムで命からがらここに逃げ込めたんですよ! 間接的にですけど、また命を救われてしまいました!」


 興奮した様子でサラがそう言う。何かあげたっけ……命を救うようなものをあげた覚えはないのだが。


「なにはともあれ、無事で何よりじゃ。しかし、わらわに何か用事かの?」

「ふっふっふ、それはね……」

「諸君! 与太話はそのあたりにしたまえ!」


 突然クレインが大声を上げて立ち上がった。


〈どうしたおっさん……〉

〈すわってろおっさん〉


「いいかい? このダンジョンは少し異常だ。迷宮騎士団はB級未満の探索者を立ち入り禁止にしているが、本気で攻略するならおそらく……S級探索者複数人のパーティが必須だ」

「S級複数!? ここってそんなにヤバいわけ!?」


 カレンは驚いているが、クレインが言っていることは正しいだろう。ここは50階層推定の中規模ダンジョンだ。まだ第5階層にもかかわらず、既に25~30階層にいてもおかしくない強さの魔物がうようよしている。


 では、実際50階に到達した時に待ち受けている敵が一体どんな強さなのか。そう考えると、明らかにB級探索者になんとかなるレベルの話では無かった。


「この薔薇の貴公子と龍神姫のパーティであれば、攻略も不可能ではないだろう。だが君たちのようなか弱いプリンセスには……これ以上は少々荷が重いのではないだろうか?」


 そんなクレインの言葉に、ミオリは苛立って反論した。


「はぁ? 誰がか弱いってぇ? リューちゃんはさておき、うちら別にアンタに負けてるとは思って無いんですけど!」

「はっはっは。これは失礼、元気なお嬢さんだ」


 しかし、ミオリもここが危険だとは理解しているようだ。


「まあ、さすがに私達だって帰りたいって思ってたんだけど、さ……」

「……帰還石が二つしかないんです」


 ミオリの言葉を、サラが補足する。今日初めて挑んだのであれば、二つ持っているだけでも十分幸運だ。それだけ沢山の敵を倒してここまでたどり着いたのだろう。俺とクレインだって相当倒したが……今日は一度も帰還石を見つけていない。


 三人パーティで帰還石が二つしかなければ、当然二人しか帰ることができない。残された一人は、単独で地道に階層を上がって帰らなければならないが……無事では済まないだろう。


「ジリ貧でも三人で頑張って帰るしかないか~って思いながらここで身体を休めてたら、リューちゃんたちが来たわけ! だ・か・らぁ……お願い! 私達と一緒に、脱出に付き合ってくれない!? お礼はするからさ!」

「ふむ……そういうことじゃったのか」


 三人だと難しいが、五人で組んで、地道に階層を上がっていけば、確かにみんな無事で地上に出られるだろう。だが……自分たちはまだまだ深層に潜る気満々だった。おそらくクレインもそう考えているだろう。


「フッ……君に任せよう、龍神姫。彼女たちは君の友達だ。もちろん、哀れな平民を助けるのは高貴なる者の務めだ。やぶさかではないがね」


 こいつは……こういう時は案外わがまま言わずにそんなことを言ったりするんだよな。さて、どうするべきか。

 ポッピンライトの三人は期待に満ちた瞳でこちらを見ているが……


「ふーむ。それもいいが、わらわ達はまだ先へ進みたいのじゃ」

「そ、そんな! リューちゃん……」


 座っていたカレンが、捨てられた仔犬のように這い寄る。上目遣いでこっちを見るカレンに思わずたじろぐが、別に見捨てようとしているわけではない。


「ぐぐ……そんな目で見つめるでない。ほれ、三人はこれを使って帰るのが一番じゃ」


 俺は自分の持っていた帰還石を、カレンに手渡した。


「ええっ!? これ、私たちにくれるの!?」

「うむ。みんなで帰るのもいいが、危険なことに変わりは無いぞよ。三人とも帰還石を使って帰るのが、一番安全じゃ!」


 視聴者たちの手前、元気に振舞っているが、明らかに顔色に疲れが見えている。三人とも満身創痍なのだろう。


「ダメです! だって、リューちゃんたちはどうするんですか?」

「心配無用じゃ。わらわはもう一つ持っておるからな。もう少し遊んだら、クレインと一緒に易々と帰れるというわけじゃ」


 まあ、それは嘘だ。帰還石に予備などない。クレインが、いいのか、というような目でこちらを見るが、とりあえず無視しておく。クレインもわざわざそのことを三人にばらすつもりは無いようだ。


「なんだぁ。助かったぁ~……正直言えば、ここから地上まで帰るのも自信なかったんだよぉ~……ありがとうリューちゃん! いや、リュー様と呼ばせてくださいぃ~!」


 カレンは情けない声を上げながら足に抱き着くと、すりすりと頬を擦りつけてきた。


「や、やめるのじゃ! とにかく、そうと決まれば三人は早く帰るのじゃ。小部屋だって必ずしも安全ではないのじゃからな」


 俺はそう言って三人を急かした。本当はもっと一緒に話していたいけど、あんまり長居させると嘘がバレそうで怖い。


「それじゃあ、お言葉に甘えて、私たちは帰還させてもらうよ。このお礼は絶対にするから。地上で待ってるからね!」


 ミオリがそう言うと、カレンは石を持ってミオリのそばに近づいた。しかしサラが何か言いたげにこちらに近づいてくる。


「リューちゃん、無理したら駄目ですからね? 少し疲れたなって思ったら、すぐ帰還石を使うんですよ。約束してください」


 涙目でこちらを心配するサラ。まさか帰還石がもう無いなんて……言えるはずがない。


「も、もちろんじゃよ~? わ、わらわ無理とか一番嫌いじゃからな~……サラは心配性じゃの~……は、ははは……」


口笛を吹いて誤魔化そうとしたが、すぼめた口からは、かすれた息しか出て行かなかった。


「約束ですからね! 絶対ですよ!」


 サラはそう言いながら、何度もこちらを振り返って足を止める。ポッピンライトの清楚担当、あのサラにここまで心配されていると思うと、少し鼻が高い。


 ん……?


 そのたどたどしいサラの足取りの最中、俺はあることに気づいた。サラが通っている地面の足元……くすんでかなり見え辛いが、ほんの少しだけ紋様が浮かび上がって見えている。


「まずい……!」

「えっ」


 驚いたサラが偶然にも、タイル状の床の、少しだけ盛り上がった場所を踏んでしまう。

 カチッ、と音がして、その石が下へと沈み込んだ。

 その瞬間、くすんでいた紋様は発光し、サラの足元を取り囲むような魔法陣が光り輝き、辺りを照らした。


「避けるのじゃ!」


 これは罠だ。どんな種類のものかはわからないが、ヒーラーのサラが受けるべきじゃないのは確かだ。

 素早く飛び出し、その勢いのままサラの背中を勢いよく押し出す。


「サラ!」


 しかし、一瞬遅れて罠に気づいたミオリも、パーティの盾役として、サラを守ろうと盾を構えて後ろに庇う様に踏み込んで来ていた。


「きゃあっ!?」


 サラは弾き飛ばされ、魔法陣の外へと出たが……俺とミオリは魔法陣の中央でぶつかる形になり、まばゆい光に包まれる。


「やってしまったのじゃ……」

「リューちゃん!」


 眩しさに目を閉じ、痛みが襲い来るのを覚悟する。ミオリを助けられなかったのは残念だが、もうどうしようもない。


 ……気が付けば静寂だけが辺りを漂っていた。


 目を開けると、そこは先ほどまでとほぼ同じ大きさの小部屋だった。しかし、そこにはサラとカレン、そしてクレインの姿は無かった。


「リュー……ちゃん? これは、何?」


 恐る恐る目を開けたミオリがそう尋ねる。


「転送罠、じゃな」


 俺とミオリはたったの二人きりで、以前いた階層よりも遥かに深い階層へと、飛ばされてしまったようだった。


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