第12話 アイツとパーティを組むのじゃ……
その日、いつものように港第三ダンジョンの入口へと向かうと、そこは物々しい雰囲気に包まれていた。
入口の扉の前には甲冑に身を包んだ者たちが仁王立ちしており、それ以外にも周囲を巡回している騎士が数人。
「迷宮騎士団? どうしてこんなところを見張っておるのじゃ?」
騎士団から遠巻きに、比較的低レベルの探索者たちがダンジョンに入ることもできずにたむろしていた。皆知らずにここにきて、なぜか入れてもらえずにどうしたものかと相談し合っているようだった。
「待ちたまえ」
一応近づいてみようとすると、後ろから誰かに呼び止められてしまった。ぎくりとして、立ち止まり、振り返ると……あんまり見たくない赤色の奴がいた。
「龍神卿……いや龍神姫よ。お困りのようだね」
クレインはなぜか腰を落として目線を合わせると、珍しく声を潜めてそう言った。
「姫はやめろなのじゃ。卿も嫌じゃ。お困りと言えばお困りじゃが、お主に会ったことが一番のお困りポイントじゃな」
「うむ。私も会いたかった、と言っておこう。ちなみに女の子はみんなプリンセスだ。君もプリンセスだということをゆめゆめ忘れないで頂こう」
「うげぇ。きもいのじゃ! お主と話しても疲れるだけじゃの。特に用が無いのなら、そろそろお暇するのじゃ」
「ん待ちたまえっ!」
「ぐえっ!」
クレインはカモフラージュ用のぶかぶかコートのフードを引っ掴んで、無理やり引き留めた。
「んなにするんじゃこのボケちんっ!」
「今、あのダンジョンはC級以下の探索者の進入を禁止されているぞ。なぜならば、港第三ダンジョンは、危険度Sランクに変更されたからだ」
「そ、そうじゃったのか?」
クレインにしては珍しく、こちらに有意義な情報をもたらしてくれた。それならばと、少し話を聞いてやることにした。
といっても、B級以上の探索者しか進入できないのなら、自分の出る幕は無い。審査を受けていない探索者は皆E級から始まるが、こんな姿で協会の審査など受けられるはずもないからだ。
「所詮、貴族ではない君のランクなどたかが知れていような」
「今の日本に貴族制度はないのじゃ。このコスプレ貴族め! しかし、確かにわらわはE級のまま。諦めて他のダンジョンを探すしかないのう……」
「それは早計だ、龍神姫よっ! 今まで探索した最短経路、トラップの場所や倒した魔物。それらを全て無駄だったと諦めて、とぼとぼ逃げ帰ろうというのかね!?」
「仕方が無かろう、入れぬのじゃから」
「いいや、一つだけ方法がある……」
「本当か? それは一体なんじゃ?」
「この僕と、一時的に、パーティを組むのだよっ!」
胸に手を当て、クレインは酔いしれるようなポーズを取った。もう一方の手で撒いたのか、白いバラの花びらが舞い散った。
「は?」
「雑魚ランク探索者である君でも、B級探索者であるこの僕とパーティを組めば、ダンジョンに潜れる。この僕が! わざわざ君の面倒を見てやろうというのだよ」
「絶対嫌じゃ!」
「そうかそうか。光栄で仕方ないか」
「絶対にノーじゃ!」
「ふんむ……しかし龍神姫。見てみたくはないか? 君は僕を決闘で下した。間違いなく実力者だ。そんな君が、Sランクになったこの特異なダンジョンの様子を探ってみたいと、好奇心をそそられないはずがあるまい?」
「ぐ、ぐぬぬ……」
それは確かに気になるところだ。一体何が起きたら突然ダンジョンがS級扱いになるというのだろうか?
それに、今までの探索が無駄になるのもクレインの言う通り悔しいところだ。しかし、この男とは。この男と一緒というのは、嫌すぎる。あまりに鬱陶しいし、連携など取れる気がしない。
「提案をする以上は、こちらも素直に本音を話させていただこうか。実は……一緒にパーティを組んでいた妹に嫌われて……しまってね?」
「な、何の話じゃ……」
「『お兄ちゃんは話を聞かないからもう一緒にダンジョンに潜りたくない!』だとか、『お兄ちゃんと配信に乗ると私まで馬鹿だと思われる。友達にも笑われるからパーティを組みたくない!』だとか。そんないわれのない非難を受けて、元々組んでいたパーティを一時解消されてしまっているのだ……」
「妹殿の苦しみに同情せざるを得ぬな……」
珍しく、クレインは素直に落ち込んでいた。一応、妹を大切に思う気持ちは持ち合わせているらしい。妹からは心底迷惑がられているようだが。
「さすがにSランクのダンジョンともなれば、B級探索者はパーティでの攻略前提だろう。この僕と組みたくて仕方ない探索者も多いだろうが……此度はその役目を君に譲ってやろうというのだよ」
「偉そうなこと言って、お主も一人じゃ心もとないのではないか……」
「そんなことはないさ。君が行かないというのなら、僕は一人であの扉をくぐるのみ。さあどうする? 魅力的な提案だとは思うがね?」
「って、やっぱりお主も他に組む者がおらんのではないか! しかし、うーーーん……」
ダンジョンには潜りたい、が、クレインとは組みたくない。何というジレンマだ。
別にダンジョンなど、いくらでも転がっているのだ。ここにこだわる必要などない。しかし、視聴者たちは今まで攻略してきたダンジョンの、さらに深層が見たいものだろう。自分だってそうだ。
「うーーーーーん……!」
ここを諦めるのは、言ってみれば、途中までプレイしたゲームを途中で放り出して、今日からはこのゲームを始めまーす! 以前のゲームはもうやりませーん! と宣言するようなものだ。
そんなのはあまりにも不誠実ではないか。そんなことをする探索者チャンネルなんぞ、登録解除されたって文句は言えないではないか。
登録解除だって? それはまずい。まだまだ少ないが、こつこつと積み上げてきた一握りの信者達だというのに……!
「う~~~~~~~ん……!!!」
――数分後。
俺はクレインの隣で、港第三ダンジョンに入り、ドローンを起動して配信を開始した。
ドローンの映した配信画面には、ひどく不本意そうな自分の顔が映っている。
「さぁて……今日もやっていく、のじゃ……」
「どうしたのかな、相棒!? 既に疲れているようだが!」
「誰が相棒じゃ! 誰が! えぇ~……非常に不本意ながら……本日の攻略は、この赤色変態男とやっていくことになるのじゃ。よろしゅう頼むぞ……」
「よろしく、諸君。ご存じ、この『薔薇の貴公子』クレイン・マッカートニーと、素敵な一夜を過ごそうではないか!」
「今は真昼間じゃ馬鹿者っ!」
◇◇
同時刻。港第三ダンジョン、第五階層。
ポッピンライトの三人は、リュー達より一足早く港第三ダンジョンへと進入していた。彼女たちのランクもまたB級。進入資格は満たしていた。
しかし、そんな彼女達を待ち受けていたのは、浅い階層に見合わぬ強力な敵の数々だった。
「だからやめようって言ったじゃない! こんなに馬鹿みたいに敵がいるなんて、聞いてないわよぉ! こんの……ブロックシールド!」
ミオリが愚痴をこぼしながらも、二人の前に出て敵の攻撃を受け止める。
三人の正面には、通路を埋め尽くさんというほどのコボルトの大群がいた。
コボルトは人狼よりも少し小柄な犬顔の魔物であり、人間のように剣や盾、鎧を身に着けて武装している。今も鋭い歯をむき出しにしながら、素早く横移動し、ミオリに幾度も斬撃を繰り出している。
本来であればまだスケルトン程度の敵が単独でうろついているような階層にも関わらず、ポッピンライトの三人の前には十を超えるコボルトが通路を塞ぐようにひしめき合っていた。
「リューちゃんがいるかもしれないんだから、行くしかないでしょ! それにこのくらいの敵、私達なら!」
カレンはミオリの防御に攻撃を弾かれ、よろめいたコボルトの隙を見逃さず、その腹へと致命的な一撃を繰り出した。一体倒したが、まだ敵の数は十を超えている。
敵が多いのに三人でも渡り合えていたのは、狭い通路のおかげもある。ダンジョンのどこで戦うかは戦略的に非常に重要な要素だ。どんなに数の有利があろうと、狭い通路では一体ずつ、あるいはせいぜい二体しか、前に出て戦えない。
「サラ、回復して! サラ……?」
「大変……」
ミオリは呼びかけに反応のないサラが、後ろを見て固まっているのに気づいた。
なんと、通路の反対側からも、スケルトンが三体、近づいてきていたのだ。
そう、どこで戦うかは、戦略的に非常に重要な要素だ。狭い通路で挟み撃ちになってしまえば、守るべき後衛の回復職であるサラが危険に晒されてしまう。
まさに、絶体絶命の状況だった。
「どうすれば……あ、これは……?」
サラはポーチに触れた左手から、ごつごつとした感触を覚えた。それはリューから感謝のしるしとして受け取った、フラッシュシステムというアイテムだった。
「みんな、目を閉じて!」
「こ、こんな敵の目の前で!?」
サラの言葉に驚きながらも、信頼を置いている二人は敵の前だというのに迷わず目を閉じた。サラはすぐ、そのアイテムのスイッチを入れる。
辺り一帯を目を閉じても視界が真っ白になるほどの閃光が包んだ。
暗いダンジョンに慣れているコボルト達はみんな目をやられ、まともに動けなくなってしまった。
「す、すごい! サラってばそんなのどこで手に入れたの!?」
「今は逃げることを考えて!」
閃光にやられたのはコボルトだけで、スケルトンたちには効果が無かったようだ。ミオリとカレンは素早くサラの前に出て、スケルトンを撃破してみせた。しかし、コボルト達の視界が回復するまで、それほど時間はない。
「……! あそこ!」
カレンが指さした先には、ダンジョンに無数に存在する小部屋に繋がる扉があった。
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