ヤンデレ皇帝と引きこもり令嬢〜政略結婚ですが案外相性はいいかもしれません〜

聖願心理

プロローグ 皇帝陛下と婚約って聞いてない!

 ぽかぽかとした日差しが心地よく、読みかけの本を置いてお昼寝をしたくなる時間帯。

 いつもなら部屋のソファに寄りかかって、目を閉じているはずなのに、今日だけは違った。


「お嬢様、伯爵さまがお呼びです」

「お父様が?」


 普段なら執務屋で仕事をしているか、外出して用事を済ませているかしていて、この時間に顔を見ない父からの呼び出しがあった。


「リビングに皆さま集まっております」

「え? お兄様たちも? そんなに重要なことなの?」


 それぞれの仕事や勉強などを置いといて、集まるべき話に心当たりはなかった。


「……もしかして、お父様やばいことやらかした?」

「やらかすなら、お嬢様の方が可能性があると思います」

「それはそうだけど……。最近は大人しく図書室か自分の部屋にこもっていたはずなんだけど」

「それはそれで問題あると思いますが……」


 呼びに来たメイドとそんな話をしているうちに、皆が集まっているリビングに着いた。


 部屋に入ると、ひとりがけのソファに座っているどこかご機嫌な父がすぐに目に入る。

 悪いことではなさそうと安心して、私は空いているソファに腰をかけた。

 どんないいことがあったのだろうと、呑気に父が話し出すのを待つ。


「グラシア。お前にいい話があるぞ!」


 あ、これはまずい。父のいい話は、私にとっての悪い話であることがほとんどだ。

 数秒前の安心を返してほしい。


「いえ、結構です」


 一応、話を聞く前に拒否の姿勢を見せるが、大体の場合、私が断れないところまで話が進んでいることが多いので、あまり意味がない。


「すまないが、もう決定事項なんだ」

「いえ、大丈夫です」

「だが、決まってる話でな」

「間に合っています」


 何がなんでも話を聞かない私と何がなんでも話を聞かせようとする父のやりとりは日常茶飯事だ。勝敗は五分五分な気がする。

 このやりとりに慣れているので、ふたりの兄はにこやかに見守って放置。

「とりあえず話を進めましょう?」と仲介役を担うのはいつも弟だ。


 父の必死な様子を見るに、今回は断れない案件であることが感じ取れたので、話だけは聞くことにした。

 父はふうと一息吐くと、笑みを浮かべて話し出した。


「グラシア、皇帝陛下の婚約者に選ばれたぞ!」


 は?


「……あの、お父様、もう一度言ってもらってもいいですか?」


 ありえない話が父の口から出てきたので、ワンテンポ遅れて聞き返す。


「ああ、何度でも言ってやろう」


 そう言う父を見て、繰り返される前に幻聴じゃなかったんだなと悟ってしまう。

 お願いだ。今からでも嘘だと言ってほしい。


「フェリシダッド帝国の皇帝陛下の婚約者に選ばれたんだ」

「誰が?」

「グラシアが」

「同じ名前の令嬢がいるのねぇ」

「グラシア・マルチェナ。私の娘のことだよ」


 グラシア・マルチェナ。伯爵令嬢。

 まぎれもなく私のことだ。


「どうしてええええええ!?」


 この国で一番偉い人の婚約者に選ばれるなんて、このときまで想像したこともなかったし、憧れたこともなかった。





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