夏

蔭深く澄んだ岩の根から

赤い眼のカラシン《熱帯魚》はやって来て

苔むしたガラスの手前を曲って行く

こちらには届かぬ視線でそのままれて行き

影も

小石の上を通り過ぎた

照し出される水のゆらぎも

岩も灯りも水草も

小砂利さえもが

謀られた仮の世界を

影は

確かに動いて行った


     なまの燕がひとつ いきなり弧を描き      

     宇宙そらから焼きつけるなまの太陽が

     この下界の大地の片隅に

     たたずむぼくのなまの影を生んだ

     けれども

     ショーウィンドウは海辺の町をあくまで眩くきらめかせ

     開け放たれた窓たちは

     どれも謎めいた銀色の光子の膜を孕んでいる


   今、

   ぼくの背後に

   真っ青な空が 深く落ち込む八月

   あの、須磨の町並みの途切れるところ

   透き通った陽炎の揺れる壁のその先に

   ふと何かの動くことがある

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