たおやかで穏やかな、この雰囲気がとても良いです。
主人公の匠は、「先生」と呼んで慕う作家の碓氷を心配する。
彼は愛妻の弥生を亡くしており、彼女が好きだった時計台をいつもぼんやり眺めている。
碓氷を心配する匠と、どこか飄々とした雰囲気の碓氷のやり取りがとても良いです。
どこか頼りなげだけど、穏やかな佇まいをした碓氷。穏やかで好感が持てる一方で、のんびりし過ぎているようでどこか危なっかしい。匠が彼を大事に想い、同じくらいに心配になってしまう感じにすごく共感もできます。
雨が降るか降らないかの、静かな時間。「新聖年」なんかが刊行されていた昭和初期の頃の時代の雰囲気。
全てが読んでいて心地よく、読者を「その時代の空気」の中に連れて行ってくれます。
世話ばかり焼かせる碓氷が、最後にちょっと「ドキリ」とさせることを言うラスト。BLのようなそうでないような、二人の独特な距離感が見えるのもまた素晴らしかったです。