Ep.2メイド姿の悲しき少女

目を覚ますと、私は自分の部屋にいた。

やはり先程の光景は夢だったんだと安堵した。

時計を見ると、出勤時間まで1時間も余裕があった。

台所でお湯を沸かし、コーヒーの粉をコップに入れ、椅子に腰掛け読みかけの小説を手に取った。部屋が暗いのはその時に気づき、咄嗟に窓のカーテンを開けた。



キュエェェェェェ!!!




「うわぁぁぁ!!!」


「あ!唯華ちゃん起きた?おはよ〜」


そこに居たのは白衣を着た女性、確か名前は...


「私の名前覚えてないんでしょ」


「ふぇ!?そ、そんなことないですよ〜」


図星をつかれて出したことも無い声を出してしまった。


「私は大和和奏、ここで開発専門だけどリーダーをやってる。よろしくねモルモ...唯華ちゃん!」


一瞬私のことをモルモットと呼ぼうとしていたが、今は触れないでおくことにする。それよりも私は今の状況がどうなっているのかが分からなかった。


「ん?それはね単純な話なの、あなた10000年眠り続けていたの」


「10000年!?な、人間にそんな寿命があるわけ...」


私が否定しようとした時、和奏さんは口元に1つ指を立て、首を横に振った。


「唯華ちゃん、これだけは言っておくわ。人間口にするとできるものも出来なくなっちゃうの、それだけ言葉には力があるのよ」


私はその言葉に、妙な説得力を感じた。







「んじゃ、聖美が伝えとけって言ってたから、これからこの世界について話すわね」


「あれ?聖美さんは?」


私の言葉に和奏さんは俯き、鼻を啜りながら、時より涙を拭く仕草を取っていた。

その時、私はとても不謹慎なことを言ってしまったと思い咄嗟に謝ろうと「ごめんなさい」と口にする瞬間


「聖美は今最前線で指揮をとってるわ、今日は既にノルマ以上の功績を挙げてるわ」


私はその言葉を聞いた瞬間の和奏さんの顔は一生忘れない。あそこまで必死に笑いをこらえる人の顔は初めて見た。


「帰ります!出口はどこですか!」


「ははは!冗談だったんだよ!まさか本当に信じるとは思わなくて」


「も〜知りません!」


私は赤面していた顔を手で覆い隠した。





『とにかく今のところは聖美は死なないわ、私もそしてあなたもね』


和奏さんはコーヒーの入ったコップを渡しながら言った。

私は和奏さんの先ほどのようにジョークを言っていると思った。

もうその手には乗らないと決意し、私はコーヒーに唇を湿らせて言った。


「不死身なんですね」


「不死身とはちょっと違うけど、ほとんどそんな感じよ」


「え?」


「まずはあなたが覚えていた最後の記憶からの話をしましょうか」


不死身というジョークが真面目にとらえられてしまって拍子抜けしてしまった。

そのまま和奏さんは話を続けた。


「2025年7月5日の予言って覚えてる?」


2025年7月5日に世界が終わる、といろんな人が予言していたのは覚えていた。

上半期なんてその話題で持ち切り、マスコミもその話で世間を騒がせていたのを知ってはいたが、私自信スピリチュアル的なことは信じないたちだった。


「あの漫画家の、すわりみず数ってひとが出した漫画のやつですか?」


「そう、それが本当に当たってしまったの。しかももっと酷いことになってね...」


和奏さんはひとつの写真を机の引き出しから取り出し、私に見せてくれた。

その写真はきっと高い場所から撮ったのだろう。特に変わったことは無いが、遠くの方で流れ星が光り輝いていた。


「これは?」


「かつて日本、東京にあった定点カメラから撮れた映像の一部始終よ。奥に見える流れ星、これが今の世界に変えた原因よ」


「こんな小さなものが?」


「これはオーストラリアに落ちた隕石なの、落ちた瞬間オーストラリアはもちろん、隣国も吹き飛んだの。一瞬の出来事だったわ、日本も少しやられたわ。これを初めにあと2つ、ロシアとアメリカにも落ちたの」


隕石が国を破壊する。和奏さんの話はとても自分事には思えず、まるでSF小説を聞いているようだった。


「で、でも!隕石が落ちただけで、なんであんな化け物が?」


私は薄々気づいていたが、きっと現実を受け入れられなかったのだと思う。


「あなたが見た生き物は『スケアード』となずけられた地球外生命体、その隕石のから今も増殖してるの。10000年もの間、私たちはスケアードと交戦しているの」


「そのスケアードも気になるんですが、やっぱり10000年も眠っていたと言うことがどうも信じられなくて...」


「生物ってね、周りの環境に適応するために進化していくでしょ?人間もそうなの、江戸時代とかに比べれば今は医学も進歩してるから寿命が延びているの、なんだけど、時より限界を超える未知の力を持っている人間がいるの。それが私たち『新聖人』なの」


「新聖人?」


「隕石の衝突時に、自分を無意識に守るため全ての神経を別のどこかに移したみたいなの。私の推測では化学じゃ証明できない何かがあると思うんだけど、それが分からないの」


腑には落ちないが、何となく納得してしまった。


「そういえば、私をスケアードから守ってくれたあのメイドさんたちも新聖人ですか?」


「いや、あの子たちは新聖人じゃないの」


「それじゃあ、あの子たちは?」


「『特殊軍事機構戦闘特化型武器少女』通称ウェポン・ガールよ。彼女たちの使命は新聖人の保護、およびスケアードの撲滅。ほぼアンドロイドね」


私は和奏さんの言葉で一つ引っかかる部分があった。


「ほぼって...」


私の言葉に和奏さんは少し言いづらそうに口を開いた。


「あの子達は元々人間だったの。ただ、隕石事件の直後体に欠陥ができちゃってね...ただ途中で新聖人になろうとしたんじゃないかな、死ぬほど痛いはずなのに、体は、心は生きようと必死になっていたの。そんな子たちを私の師匠は魔改造してウェポン・ガールに変えたの、一応記憶も全て消したんだけどね」


私は言葉がでなかった。同じ人間なのに、もしかしたら私がそっちになっていたかもしれない...そう思うとゾッとする。


「彼女たちに感情はないんですか?」


「いや、記憶は消せたんだけど、根本的な感情までは消せなかったの。それに完全に消せたわけじゃないから、時々自分の今の姿に嫌気を刺して、死を懇願する子もいるわ」


「その場合、望みをかなえてあげるんですか?」


和奏さんは首を横に振った。


「彼女たちは死ねないの、スケアードの攻撃以外ではね。それは私たち新聖人も同じ、この世界に自害は無いの」


「.........」


「だからね、私たちがあの子達のメンタルケアをするために生活を共にすることが義務づけられてるの。私も、聖美も、新聖人は皆ウェポン・ガールと共に生きてるのよ、もちろんこれからは唯華ちゃんもね」


「私、自信ないです...でも、私は生きてる。あの子たちのおかげで。私にできることを全力でやらせてください....」


私は彼女たちの悲しい過去を聞き、そんな思いをさせたスケアードに怒りを覚えた。

私はこの時心に誓った。

彼女たちに、普通の生活を取り戻すと─


「唯華ちゃん、あなたならきっとあの子に感情を取り戻すことができるわ」


「あの子?」


和奏さんはファイルから一つの紙を取り出した。


WG No.1028

W近接 大剣・二丁拳銃

W遠距離 レールガン

新聖人  神崎葵(スケアードの攻防により戦死)

     現在は新聖人無し

3025年旧東京にてスケアード出現時に一家惨殺を経験、右半身の負傷。

No.77(こちらも新聖人無し)の細胞を与えている

葵の死のショックから感情を殺し、現在新聖人と距離を置いている。


「これは?」


「あなたが最初に見たウェポン・ガールよ、そして今日から相棒になる子」


「私がこの子を!?」


先ほどの車内の空気を思い出し、私の頭に文字が浮かんだ。


「無理です!!」


「え~!私が話した限り、唯華ちゃんに適任だと思うんだけどな~それに、もう手続きしちゃった!」


最初から私には選択の余地はなかったようだった。私は和奏さんという人間がよく分からなく感じた。




和奏さんの元から去る時、カードキーとブレスレットを渡された。


「今日からこのカードキーがあなたの家の鍵よ、それと新聖人も一応スケアードと戦ってもらうことになるかもしれないからこれ付けといて」


「ブレスレットですか?」


「これは軍からの支給品、これを付けておくと色々と便利なのよ。試した方が早そうね、色々設定はこっちでやったからあとは使うだけよ。ブレスレットをつけた方の手を前に出してみて」


私は言われるがまま右手を自分の前に出した。

それと同時に、和奏さんも腕を前に出し目を閉じた。


『サブマシンガン』


一言声に出すと、突き出した腕のブレスレットが光だし、形を変化させた。

次の瞬間には腕自体が禍々しい武器、サブマシンガンになっていた。


「ほらね?でもこれ可愛くないんだよね〜だから私は近接は剣にすることが多いかな、武器によってブレスレットが変化したり、武器そのものが自分の手に現れたりと色々だから、試してみるといいよ」


「ありがとうございます。また今度使ってみますね、あんまり使わない生活がしたいけど」


「それがいいよ、こんなもの本当は作りたくないんだけどね...まぁ、こんな世界だけどさ生き抜こうね」


私は去り際に和奏さんと握手をして去った。

和奏さんの力はとても強かった。

安心させるためか、それとも和奏さん自身の恐怖の表れか、私には分からなかった。




























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