第22話 女王様の寝室

 信二とナターシャは会場の隅に置いてある椅子に座った。するとおもむろにナターシャが言った。


「ここに来てよかった! あまり気が進まなかったのよ」

「どうしてですか?」

「夫は仕事が忙しくて私一人をここに寄こした。席に座っていても難しくてつまらない話ばかり・・・。だから席を離れてダンスでも見に来たの。それでね・・・」


 信二はうまいタイミングでナターシャと会えたようだ。


「今夜はいろいろとお話がしたいものです」

「レースの話?」

「いえ、あなたのことをもっと知りたい・・・」


 信二がナターシャの目を見つめながらささやいた。彼女はそれに引き込まれている。なかなか順調だ。このまま外に連れ出して宿舎まで・・・


「奥様! 時間です!」


 いつの間にかボディーガードがそばに来ていた。


「もう少しだけ・・・」

「だめです。ホテルに帰ります。時間厳守するように命令されています」


 ナターシャは否応なしにボディーガードに連れて行かれた。彼女は名残惜しそうに信二を見ていた。信二も彼女の姿が見えなくなるまでずっと見送っていた。


(惜しかったな。もう少しだったが仕方がない。別の女でも誘うか・・・)


 と思いながら・・・。


 ◇


 いよいよ予選が始まった。やはりマイケルとロッドマン、それにショウの調子はいい。次々に速いタイムを出している。それにシーナ国の2人だ。新しいマシンにこのコースに対するセッティングが完璧に決まっている。本選でもかなり厄介な存在になるかもしれない。

 信二もコースを走行した。同じMB4気筒だがマイナーチェンジは繰り返されている。少しずつだがパワーも上がっている。公式練習では敵を油断させるために手を抜いたが、予選でいいタイムを取って少しでもいいポジションを取りたい・・・信二はそう思っていた。


 結局ポールポジションはマイケル。2番目はショウ。3番目はロッドマンだった。信二はわずかの差で4番目だった。だが巻き返せる位置だ。展開次第では優勝も狙える。だが・・・彼の後はシーナ勢の2人が続いていた。この順位を見て信二は何か嫌な予感を覚えた。


 ◇


 予選から1日置いて本選となる。この日は信二はやりこともなく手持ちぶさただった。メカニックはすべて明日の本選のために忙しい。信二は一人でぼうっとするしかなかった。


(そういえばこのホテルの最上階のスイートルームに女王様が泊まっていたな。今日は公式行事はないから・・・・)


 そう思うと早速行動に起こした。まずシャワーを浴びてさっぱりして、こざっぱりした服に着替えてから最上階に向かう。ドアをノックすると侍女のサキが出てきた。


「女王様にお会いしたい」

「急な面会は無理です」

「どうしてもお会いしたいんだ。明日のレースのために・・・」

「では聞いて来ます」


 そう言うとサキはドアを閉め、奥へ引っ込んでいった。そしてまたドアを開けた。


「女王様がお会いくださるそうです」

「それでは・・・」


 信二は中に入った。アドレア女王はソファに座っていた。テーブルの上にはいくつかの書類が置かれている。


「シンジ。何の用でしょうか?」

「女王様。2人だけでお話を・・・」


 信二は意味ありげにウインクした。アドレア女王はその意を汲み取ったようだった。


「いいでしょう。サキ。はずして」


 そう言われてサキは心配そうに2人を見ながら部屋を出て行った。


「さあ、これでいいでしょう」

「ええ、これで話しやすくなりました」


 信二はアドレア女王の隣に座った。彼女は全く警戒する様子はない。


「女王様。私はあなたのことばかり思っています」

「シンジ。レースに集中してください」

「でも心が女王様にひかれているのです」


 信二はアドレア女王の手を取った。


「あの日からずっと・・・私はあなたの愛の奴隷になりました」


 次々に信二から口説きの言葉が次々に出てくる。アドレア女王の表情は変わらないが、その手からは動揺が感じられる。


(あと一押し・・・)


 信二の言葉に熱が入ってくる。


「明日のレースに命を懸けるつもりです。女王様のために・・・。その私にあなたの励ましが欲しいのです」

「シンジ・・・」

「もう一度あの時のように・・・」


 信二はアドレア女王の目を見つめながらそう言った。


「わかりました。向こうのお部屋の方へ」


 アドレア女王は微笑みながら右手で向こうのドアを示した。多分、そこは寝室だ。


(ようやくまた果たせる。今度はどんな風に攻めようか・・・)


 信二はそう思いながらもアドレア女王の手を取った。


「私はシャワーを浴びてきます。お部屋で待っていてください」


 そう言われて信二は隣の部屋に行った。薄暗くムーディーな照明に大きなふかふかのベッドに薄い布が天蓋から垂れ下がる・・・そこは女王様の寝室にふさわしかった。

 信二ははやる気持ちを抑えようと体を動かしていた。鍛え上げられた筋肉がぐっと盛り上がる。準備は万端だ。


 やがてドアがノックされて寝室に入ってきた。


「シンジ!」


 それは侍女のサキだった。彼女は湯上りでバスタオルを巻いているだけだ。


「どうして君が?」

「来ちゃった! どうしても我慢できなくて・・・」

「いや、女王様は?」

「女王様のことは考えないで。ここには来ないわ! だから私だけ見て!」


 サキはバスタオルを取った。その豊満な体をさらしながら信二のそばにきて、その腕にまとわりつく。


「抱いて・・・」


 信二はすでに準備OKの状態だ。ここでだめだ・・・と言って帰ることもできない。


(据え膳食わぬは男の恥! それならサキで!)


 信二はサキをベッドに押し倒した。それから2人の熱い時間が流れる。意外だったのはサキの乱れっぷりといきっぷりだった。廊下にも声が漏れるのではないかと心配するほどだ。


(普段はおとなしい顔をしているのにすごいな! こんな女はそういない)


 やがてコトが終わった。サキはベッドの上で満足そうな顔をしてのびている。シンジはベッドから出てカーテンを開けた。もうすぐ夕方だ。メカニックたちが戻ってくるだろう。


「もう行かないと・・・」


 信二は服を着た。サキは起きようともしない。


「女王様とはできなかったが、まあいい。今度こそあの時のように・・・」


 そこで王宮での一夜が思い出された。あの豊満な体を・・・。


「あっ! まさか!」


 信二は思わず大きな声を上げていた。


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