第20話 和解
いよいよリモールGPの本選が始まる。各マシンが
「3,2,1.スタート!」
マシンが一斉に動き出す。するとウッドリアが飛び出した。単気筒だが軽量なマシンがスタートダッシュを決めさせた。いきなりトップに立つ。観客席から自国のエースライダーの走りに大きな歓声がわき起こっていた。
ウッドリアはそのまま飛ばす。そのあとをマイケルとロッドマンが追う。信二はその後だ。ショウはスタートに失敗したらしくかなり後ろを走っている。
(これでライバルが1人減った。だが・・・)
マイケルとロッドマンは強敵だ。何とか早いうちに追い抜いて有利にレースを進めねばならない・・・信二はそう思って序盤からコーナーを攻める。だがなかなか差が縮まらない。
2周、3周はこのままで推移した。ウッドリアがまだトップを守っている。マイケルたちを寄せ付けない。独走態勢になろうとしていた。(もしかしたら・・・)と期待する観客たちがスタンドで熱狂していた。
だがさすがに5周目に来て、マイケルやロッドマンがペースを上げる。ウッドリアの逃げ切りを許さないと・・・。信二はそのペースについて行くのがやっとだった。
(まずいな。マイケルもロッドマンも調子がいい。ペースを上げたがまだ全力じゃない。こっちはこれが全力だというのに・・・)
信二は焦りを覚えていた。
7周目でやっとマイケルとロッドマンはウッドリアをとらえた。やはりマシンの性能が違う。ウッドリアが老練のテクニックでがんばったが、直線で軽く抜かれていく。これで信二の前はウッドリアになった。
信二もウッドリアを抜こうとするがブロックしてくる。信二だけには抜かせまいと・・・。多分、(娘は渡さん!)と執念の塊になっているのだろう。ここに引っかかっているうちにマイケルとロッドマンはずっと先に行く。
「まずいな・・・」
信二はヘルメットの下で唇をかみしめた。あのことがこれほどまでにレースに影響するとは・・・。だが反省している余裕はない。あの男が後ろから来ていたのだ。
ピットサインからショウが後ろから迫っていることを知った。ショウはスタートに失敗して後ろから追いかけていたが、それをメアリーがブロックしていた。だがさすがはショウ。メアリーを抜き去り、信二の後ろに迫ってきたのだ。
(前はウッドリア、後ろはショウ・・・)
信二は焦ったが、まずはウッドリアをパスしなければならない。辛抱強く後ろについていると、一瞬だけ、ウッドリアのブロックが甘くなった。信二はそこを見逃さない。ハングオンスタイルでコーナーをさらに攻めて抜いていく。
だがほっとしてはいられない。ショウが簡単にウッドリアを抜いて追ってきていた。
(ショウのマシンも調子がいい。ここは我慢比べだ!)
直線ではショウの方が上だが、コーナーでは信二の方が分がある。信二はハングオンスタイルでなんとかリードを保った。だがマイケルとロッドマンははるか先だ。周回遅れになったメアリーがブロックしようとしたが、一瞬で抜いていく。
結局1位はマイケル。2位はロッドマンだった。信二はショウの追撃を振り切り3位に入った。4位はショウ。5位はウッドリアだった。これで総合ポイントはマイケルが30点で1位になった。信二は28点で2位に落ちた。
総合ポイント
1位 マイケル(ボンド国) 30点
2位 信二(マービー国) 28点
3位 ロッドマン(スーツカ国) 27点
4位 ショウ(ヤマン国) 19点
ボンド国のピットは久しぶりの優勝にお祭り騒ぎだった。それに新型マシンとエンジンが予想通りの働きを見せて、これからのGPレースの見通しが明るくなったからだ。
信二はピットに戻ってきた。ウッドリアに引っかかっていなければもう少しいい勝負ができたかもしれない・・・そんな反省があった。駆け寄ってきたボウラン監督に信二は謝った。
「すいません。力を出し切れなくて・・・」
「いや、奴らのマシンの方が上だった、特にボンド国のマシンはまだ余裕があるようだった」
そう言ってもらえると心が少し軽くなる。ピットにはニコールが来ていた。マシンを降りた信二を迎えてくれる。
「お疲れさま!」
「どうして君がここに?」
「ボウラン監督に頼んでずっと見学させてもらったの。リモールのピットでは父に追い出されてしまうから」
ニコールはここでレースを、いやピットの様子まで見ていたのだ。
「厳しい世界ね。でも私も加わりたくなった。メアリーさんみたいに女性でもできるのだから」
ニコールはそう言っていた。
そこにウッドリアがやって来た。ニコールを連れ戻しに来たのかもしれないと信二が前に立った。だが・・・。
「私は負けた。娘は君に・・・」
ウッドリアはうなだれていた。
「ウッドリアさん。僕は娘さんを連れて行こうとは思いません」
「えっ!」
「でも聞いていただきたいことがあります。ニコールさんはあなたを深く尊敬しているのです。だからレーシングライダーになりたいと言っているのです」
「そうなのか?」
信二の思わぬ言葉にウッドリアは驚いていた。
「ニコールさんの夢をかなえさせてあげてください。あなたの力で。彼女はあなたのような素晴らしいレーシングライダーを目指しているんです。彼女は本気なんです!」
信二は頭を下げた。ウッドリアはそれを聞いてため息をついた。
「娘はそれほどまで・・・。親としてこんな危険な職業にはついてほしくない。だから反対した。だが内心、うれしかった。本当に・・・。ニコールが本気でそう思っているなら・・・」
ウッドリアは折れてくれそうだった。今度はニコールの番だ。
「私はいやよ。後になって『絶対だめだ』と言うんだから。信二と一緒にいて修行するわ」
「何を言っているんだ! お父さんは君のことが一番心配なんだ。さっきのレースを見ただろう。君を渡すまいと頑張ったんだ。あんなに一生懸命に・・・。君はどうも思わないのか!」
信二は少し激しい口調で言った。ニコールはしゅんとして黙ったままだ。今度は優しく言葉をかけた。
「お父さんはきっと君の夢をかなえさせてくれる。君のお父さんは世界一のテクニックを持つライダーだから。さあ、お父さんのそばに行って・・・」
信二は優しくニコールを送り出した。彼女とウッドリアは少し気まずそうにしていたが・・・
「ありがとう。シンジ。これで娘とも何とかやっていけそうだ」
「よかったです」
信二はウッドリアと握手した。
「君のことを誤解していた。私は君を見直した。君ならニコールを嫁に・・・」
「いえいえ、それは・・・」
信二はすぐに断った。
「ニコールさんの夢をかなえるのが先です」
「それもそうだな。でも私はいつでも大歓迎だ! ははは」
ウッドリアとニコールは2人並んで帰っていった。その姿に信二はほっとしていた。
(危なかった。あのままではニコールがずっとついてくるところだった。彼女とは大人の関係でいたい。一夜限りの・・・)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます