第二節
美和が学校から帰宅すると、二人の男女が自宅を見上げていた。絵にか描いた美男美女である。近隣住民も見とれて通っていた。次の瞬間――二人と、目があった。美和の心臓はドキリ、と高鳴った。都の家族なのだとピンときた。預かっている物でもあるのかもしれない。空気も柔らかくて悪い印象はなかった。
「あなたが相田美和さんね」
「自己紹介をしなくても、僕たちが来た理由、正体を察しているみたいだね」
「相田君から手紙を預かっているの。確かめてみてくれる?」
美和は鈴から手紙を受け取った。
相田美和様
和江様
封筒には都の奇麗な字が並んでいる。普段と変わらない字だった。
「間違いありません都の字です」
「渡すのが遅くなってごめん。無事に渡せてよかったわ」
「原田さんは分かります。山口鈴さんはどうして?」
「あなたに会って話をしてみたかった。相田君が心を開いた人と話してみたかったの」
「それと、君に会ったらいいたくてね」
「私に?」
何を言われるのだろうかと、美和は緊張で体を強張らせた。
「わがままな都を愛してくれてありがとう。真剣に向き合ってくれて感謝をしているよ」
「わたしたちはあなたの味方よ。何かある時には、すぐに駆け付けるわ」
「聞いてもいいですか? 都の遺骨は?」
「海にまいたわ。勝手なマネをしてごめんなさい」
「いいえ。都も疲れていると思います。都の傷が癒されるのなら、私は何も言いません」
よくも悪くも美和は純粋なのだ。真っ直ぐなのだ。だからこそ、都は悪い人に利用されないために、守りたかったのだろう。自分だって都の「家族」だ。二人だけに責任を負わすわけにはいかない。彼らとなら、険しい道でも歩いていける。協力できる。関係を築いておくのもいいだろう。美和を見る眼差しは、優しかった。
包み込んでくれていた。
「相田さん。私たちはね――」
「デザインズ・ベイビーと人間がともに、歩める場所を目標としている」
美和は若き次世代のエースとして、期待をしている気持ちがヒシヒシと伝わってきた。
「相田さんには私たちのサポートをしてほしいの」
「やってくれないかな?」
「やります。やらせてください――私は都のために、代わっていく日本を見届けます」
美和は二人の目を見返した。
漆黒の瞳は輝いている。
どうやら、興味をもったらしい。
「ありがとう」
「精一杯やるだけです」
「湊。そろそろ、行かないと。まだ、大学の講義が残っているでしょう?」
高校や中学が終わっている美和と鈴とは違って、まだ大学の夕方の講義が残っていた。デザインズ・ベイビー用たちの薬の開発も継続しているが、中途半端なままだった。
「そうだね」
「慣れないだろうし、最初はゆっくりでいいからね」
三人はラインの交換をする。都の遺骨をまいた海も教えてもらった。
これで、いつでも、都に会いに行ける。
「よろしくお願いします」
美和は遠ざかっていくオートバイを見送った。
第三節
「美和。お客さんかしら?」
「今、都の家族と会ったわ。原田さんたちのサポートをしてほしいと言われたの」
「美和はどうしたい?」
「私はやりたい。『私たちのやれることを、やった方がいいわ』とお母さんは言ったよね?」
「迷う時もあると思うわ。その時は、いつでも相談に乗るから頑張って」
美和はそれと、手紙を渡されたのと美波に渡す。
「お母さん?」
美和は手紙を読んで泣いている美波に、ハンカチを取り出した。都がいなくなってから、美波が初めて流す涙だった。二人で痛みを分かち合っていきたい。生きれていれば、幸せもたくさん舞い込んでくるだろう。
「都は私たちを家族だと思ってくれていたのね」
美和と美波の思いは、都に届いていたのだと実感をしたのである。声は聞こえていたのである。諦めずに、呼び続けた結果だった。美和と美波の行動は無駄ではなかったと、安心できた。ただいま、と都が言える家庭だったのだと、育てた者のは誇りをもってもいいだろう。胸を張っていいだろう。美和と美波の自信にもなっていた。
「都が?」
「ええ。驚いたでしょう?」
「都が私たちを家族と認めてくれたの?」
「そうよ。都の気持ちは手紙に書いてあるわ」
「私も読んでいいかな?」
「当たり前よ。あなたも都の家族でしょう?」
「お母さん。私は都の姉でよかった」
「私も都の母親でよかった」
「私たちは幸せ者ね」
「そうね。私は都の手紙を読むね」
「部屋でゆっくり読めばいいわ」
美和は部屋に入って、手紙を広げた。
美和
美波さんへ
手紙が二人の手に届く頃には、僕はいないと思う
最近、不器用ながらに思う
あなたたちと家族で幸せだった
原田教授が僕を生み出さなければ、二人には出会えなかった
会えなかった
愛情を知らないままだった
始めは諦めていた命だった
実の母親と死ねばよかったのに、生まれてこなければよかったのにと、思っていた
二人の思いやりが嬉しかった
救われた
相田家での生活は忘れないよ
忘れたくないよ
あなたたちとの日々は、一生の宝物になると思う
いつの日か、再会を願って
元気で――ありがとう
相田宮
美和は都の手紙に、涙を拭う。都の本心と本音が書かれていた。家族として愛してくれていて、生きた証として残っている。都が生きていた証を、本として記録していくのもいいだろう。
手紙を写真立て入れた。
――泣くのは最後にしよう。
メソメソばかりはしていられない。
――笑顔でいないとね。
――都、約束するよ。
――私は都の分まで生きるわ。
――生きてみせるわ。
――結婚をして子供ができた時に、あなたの話ができると嬉しいな。
――都みたいにかっこいい人がいたんだよ、と言い聞かせたい。
――自慢したい。
――だから、私たちを見ていてね。
――見守っていてね。
美和は部屋の窓を開けて、空を見上げる。夏らしい真っ青を青空が広がっていた
2
デザインズ・ベイビー 朝海 @asami1986
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