はじめくんの冒険

「さて、探検するか!」

 そういったのはこの物語の主人公、波野源(はのはじめ)くんである。

 彼はかなり早い段階でアトモスにやってきたのだが御年8歳の彼にはすべてが新鮮であった。

「ママ!外に探検してくるね!」

「はーい、夜ご飯までに帰ってきてね~」

 その言葉を聞くとはじめはすぐに家を飛び出した。

「あ、しょうくん!こんにちは!」

「はじめくんじゃん!こんにちは!」

 アトモスではみな優しい。住居テストで攻撃性のない人が選ばれているのだ。

 はじめはどんどん進む。目的地もないまま。

 はじめは完全に気持ちよくなっていた。

 ああ、まるでぼくが風になったかのような…。そんな気持ちになっていた。

 なのでなんということでしょう、と言うべきか、案の定と言うべきか。

 はじめは迷子になった。

「ママぁ…?パパぁ…?」

 心細いというのがひしひしと伝わる声が森に溶ける。

 やがて森を抜けると住宅街に着いた。

 建てられた看板を見てはじめは驚愕した。

「13番地……!」

 悪いことをするといつもママが13番地に連れてくよ!というのできっと恐ろしい所なんだろうとは思っていた。

 しかしその姿はいたって普通の町並み。決してあらゆるところに死体が置いてあるわけでも路地裏で怪しい黒ずくめの男たちが取引をしているわけじゃない。

「ここが……13番地?」

 その時、目の前の家の扉が開いた。

 出てきたのはぼくと同じくらいの年の男の子。

 はじめは第一村人発見!と言わんばかりの速度で話しかけた。

「こんにちは、ここからうちまで戻りたいんだけどどうしたらいいの?」

 男の子は急に声を掛けられたからかすこし行動を停止した後、無言のままでコーズを起動し、地図アプリを開いて指でなぞった。

「こうやって帰ればいいの?」

 男の子はこくんと頷いた。

 はじめはにっこりと笑って大きな声でありがとう!と言うとその道を辿っていった。それがはじめともうひとりの主人公瑠世との出会いだった。


 森まで行ったはじめがおなかをすかせて帰ってくるとちょうど夜ご飯の準備ができていた。

「いただきまーす!」

 さっそく食べようとすると「ちょっと待ちなさい、女神様への感謝の言葉がまだでしょ?」と制止された。

 正直はじめにとってこの時間は一番苦痛な時間だった。

 目の前に食事があるのにありつけない…その待っている時間がかったるかった。

「よし、食べていいわよ」

 言うが早いか食うが早いか、はじめは早速食べ始めた。

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