The STELLA | 三題噺Vol.22
冴月練
The STELLA
📘 三題噺のお題(第22弾)
星を食べる獣
記憶の砂時計
歌う廃墟
―――――――――――――――――――――
【本文】
最初は、小さな新種の動物だったんだ。
可愛らしい姿に、子どもたちをはじめ、多くの人が心を奪われた。テレビでもネットでもそいつの姿が連日流れた。まさに、アイドルだった。
名前が公募され、“ステラ”と名付けられた。
何でも食べる姿を、人々は「可愛い」と言って笑っていた。本当に……何でも食べることがわかるまでは。
成長するにつれ、ステラは食欲を増し、そしてさらに成長した。それは、対数的だった。
食べ物だけを食べていたステラは、ある時から無機物も食べるようになった。
科学者の一部がステラを危険視した。だが、「興味深い個体」とか言って、ステラを擁護する科学者もいた。今にして思えば、本当に愚かな科学者どもだった。科学者たちの議論は平行線で、結論は先送りされ続けた。
市民の中からも、ステラを殺処分すべきという意見が出た。しかし、動物保護団体が頑なに反対した。その裏では、政治とか金とかが絡んでいたことが後にわかった。
だが、巨大になったステラが、地面に食らいついて食べ始めたとき、ステラ擁護派は沈黙した。
ステラの殺処分が決まり、実行された。しかし、決断が遅すぎた。急速に力を増すステラに、人類の武力は置いて行かれた。
「やあ、やあ、兵士諸君! 調子はどうかね?」
女性科学者が明るい声で基地に入ってきた。基地全体がうんざりした空気に包まれる。
良いわけが無い。怒鳴りつけたいと思っている兵士はたくさんいるだろう。だが、できない。何しろ世界の命運を握っているほどの天才科学者だ。
チラリと女性科学者を見る。まだ30歳ほどだと聞いた。見た目だけならかなりの美人だ。
兵士たちの何人かが、オレにアイコンタクトを送ってくる。意味は、「一番近くにいるオレが何か言え」だろう。
小さくため息をつくと、女性科学者に向かって口を開く。
「いいわけないでしょ、先生。ステラにやられっぱなし、押されっぱなしなんですから。皆疲れてるんです。静かにしてくださいよ」
女性科学者は小首をかしげている。
「う~ん? 私の作った新装備、役に立たなかった?」
話しかけられてしまったから答える。
「いえ、すごく役に立ちました。おかげで兵士の被害は最小です。ですが、ステラを倒すことはできませんでした」
悔しさに顔を歪める。
「そっかー。もっとずっと強力な武器が必要か。あれの開発を急ぐ必要があるね」
最後は独り言のようにしゃべっている。「あれ」って何だ?
「うん、わかった。邪魔したね」
そう言って、女性科学者は片手をひらひらさせながら去って行った。
兵士たちのため息があちこちから聞こえる。
夜になり、空を見上げる。
この辺りには人がいないから、星空がきれいだ。
「ステラか……“星”って意味だったか。なんとも皮肉だな」
呟いて、口の端を歪める。
巨大化したステラは、今では地面を盛大に食らっている。その姿は、地球を食べる怪物だ。
ステラは星を食べ、巨大化し、さらに星を食い荒らす。遥か彼方からでも見える動く山脈。それが今のステラだ。
もっと早くに核兵器を使う決断をしていれば、とも思う。だが、決断は難しかった。それはオレにもわかる。今では、核兵器くらいではステラは倒せない。
ペンダントを取り出す。円形の意匠の凝ったペンダント。中央の青い石は、今はただの石だ。
これと同じものを持つ彼女のことを思う。
美しく聡明で、歌が抜群に上手い。なによりも、生まれ持ったカリスマ性は、人を惹きつけてやまない。
その資質に注目した政府は、彼女を人心を掌握するためのアイドルに据えた。ステラに怯え、荒廃した社会には、彼女のような存在が必要だった。今では“姫”なんて呼ばれている。
子どもの頃はいつも一緒に遊んだ幼馴染なのに、今じゃ俺は「兵士」で、彼女は「姫」。ずいぶん違う人生を歩んでいる。
その時、ペンダントの青い石が輝きだした。
彼女もペンダントを見ているということだ。
遠くにいる彼女に念を送る。
彼女の無事と幸せを願う。
しばらくして、女性科学者に召集された。
格納庫に入ると、新型の戦闘機が並べられている。今までの戦闘機に比べて、かなり巨大だ。
「やあ、よく来てくれたね」
女性科学者が格納庫に入ってきた。
「これが私が作っていた対ステラの切り札だ」
珍しく、女性科学者が真剣な表情になる。
「今までとは違うエネルギーを使う。わかりやすい言葉で言うと、“時間”からエネルギーを取り出す。その力は、核の比ではない」
そこまで説明すると、女性科学者は少し間を置いた。
「だが、問題がある。なんとか解決したかったが、できなかった。すまないと思っている」
そう言うと、女性科学者は頭を下げた。いつもとあまりにも態度が違うので、兵士の間にざわめきが生じる。
「問題というのは、パイロットに副作用が出るということだ。その副作用は……記憶を失う」
女性科学者は、痛みを感じているような表情を浮かべた。
オレを含め、パイロットに志願した者たちが新型戦闘機に乗り込む。
操縦自体は、今までとほとんど変わらない。多くのことは、AIがサポートしてくれる。
基地の人達、そして女性科学者に敬礼で送られながら、オレたちは出撃した。
隊列を組み、ステラへと向かう。まだ新型エネルギーは使わない。使うのは、戦闘に入ってからだ。
すぐにステラが遠くに見えてくる。山脈のような大きさだから、見えてはいても、実際は遥か彼方だ。
見える位置にセットしたペンダントに目をやる。今は光っていない。
戦闘開始ラインに到達したことを伝えるアラームが鳴る。
彼女の顔を思い出してから、意識を戦闘に切り替えた。
新型エネルギーの使用を開始する。
同時に、コクピットに白い砂時計のホログラムが表示される。女性科学者は、「記憶の砂時計」と呼んでいた。この砂時計の砂が落ちきったら、パイロットの生命維持ができないほどに記憶が失われるそうだ。つまり、戦えるのは砂時計の時間内ということ。
わざわざ砂時計のホログラムなんて、凝ったデザインのものを作らなくても良いのに……そう思い、苦笑する。
新型エネルギーを使った兵器は、今までとは別次元の破壊力だ。
今までは、ステラはオレたちの攻撃を意に介さなかった。だが、今回は反応する。嫌がって反撃してくる。
オレたちは隊列を組んで、ステラに波状攻撃を浴びせ続ける。明らかに、ステラが弱っていく。
歓声を上げたいが、砂時計を見るとそんな気分は消し飛ぶ。もう、半分以下だ。
自分が何を忘れてしまったのかを一瞬考える。わからない。でも、彼女の顔が浮かんだから、迷わずに戦闘を続ける。
何機かが撃墜されたり、被弾したので体当たりを仕掛けたりした。
やられたのが誰なのかを考えるが、顔も名前も浮かばない。
ただ、ステラが弱っていることはわかる。
残った機体で波状攻撃を仕掛ける。こういう動きは、体が覚えているようだ。
あと少しでステラを倒せそうだが、こちらの機体もさらに減り、残りは3機。
1機が被弾し、体当たりを仕掛け、成功した。
チャンスだ。もう1機とともに、残った武器を全て発射する。
目の前の怪物の名前は、もう思い出せない。ただ、倒さなくてはならないことはわかる。
ふと、青く光るペンダントが目に入った。これ……何だっけ?
怪物が沈んでいくのが見える。
AIが、新型エネルギーの使用を停止する。砂時計が、砂をわずかに残して消える。
もう、操縦する気力は無い。あとは、AIの自動操縦に任せる。
機体の損傷が激しかったようで、AIは機体を廃墟となった都市に緊急着陸させた。
モニターに、脱出して機体から離れろと表示されたので、それに従う。
しばらく走ったら、広い場所に出た。疲れたから走るのを止める。
地面に大の字になって、空を見る。自分が何をしたら良いのかわからないから、そのまま横になっている。
どれくらい時間が経ったのだろう?
遠くから音が近づいてきた。
見ると、何かが飛んできて、オレの近くに着陸した。
たくさんの人が下りてきて、オレを調べ始める。「医者」という言葉が浮かぶ。
飛んできたものの中から、女の人が降りてきた。
止められているようだが、それを振り切ってオレの方に走ってくる。
とてもきれいな女性だ。泣いているけど、どうしたのだろう?
青く光るペンダントをオレに見せる。そう言えば、同じものを戦闘機の中で見た。何でこの人は、同じものを持っているのだろう?
そんなオレを見て、その人はもっと泣き出す。
オレは、何か悪いことをしたのだろうか?
オレに抱きつき、泣き続ける。
その人は、歌い始めた。
上手だなと思った。
なんだか、昔聞いたことがあるような気がした。
―――――――――――――――――――――
【感想】
「星を食べる獣」という、直球なお題をどう使うかで悩みました。考えた末に、そのままの意味で使いました。
残り2つをどう絡めるかでも悩んだのですが、以前生成AIでたまたまできた絵で気に入ったものがあり、その絵をイメージして物語を作りました。
設定は作り込めていませんが、自分では、割とよくできたと思っています。
The STELLA | 三題噺Vol.22 冴月練 @satsuki_ren
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