第14話

「次の目的地への目処はたっているのですか?」

 宿に帰って、結局図書館で借りた本を読んでる勉強していると、同じ部屋でくつろいでいたアストラさんがそう声をかけてきた。

「うーん……。何もかな。そもそもどこに向かったらいいかって言うのはハッキリしてなくて」

 思い返せば、王様の元に向かったのも、ここピアティーノ町にきたのも割と行き当たりばったりな感じで、明確に目標を立てて向かった場所ではなかった。

 (世界を救うなんて言っちゃったから、ちゃんと手がかりをまとめて拠点を突き詰めないとな……)

「私は新参者なのであなた方に合わせて行動しようと考えていますが……もし道に迷うようでしたらお声掛けを」

「うん、ありがとう」

 手元の借りてきた本を見つめる。今開いているページには、魔力の出力について書かれている箇所だった。

 (具体的に魔力の出力をイメージして放出する……)

 おじいちゃんに習ったものとだいたい同じことが書かれている。本を読んでいてわかったのだが、魔力の流れを感じることも一種の才能のようで、そもそも魔力の流れを感知できずに、魔法が使えないまま生涯を終える人も少なくないようだ。

ファンタジー世界だからといって誰もが魔法を使えるような世界ではないんだな、と思った。

 本を読み必要だと思う箇所をノートに移していると、部屋のドアが軽く叩かれた。

「アシリア、いるか? くつろいでいるところ悪い」

 ネクロだ。ドアを開けにいく。

「いるよ。どうしたの?」

「すまないが、今から予定が入った。この町を出るなら明日以降にしてくれるとありがたい」

「分かった。どこか行くの?」

「そんなところだ」

 じゃあ、とネクロは用件だけを簡潔に伝え、その場を去っていった。

「いつもあのような感じなのですか?」

「ネクロは謎が多いんだよね」

 あまり自分から喋らないし、自分のことを話したがらない。かと思えば意外と食欲旺盛でご飯を食べている時はなんか表情が柔らかい。

「それなら、今日はゆっくりしていようか」

「そうしましょう。行き先を決めるのはネクロさんが居ないと満場一致にはならないですし……」

 朝の騒動、昼の占いと続いて今日は怒涛の1日だった。

 一日中薄暗いから時間感覚がおかしくなりそう、というかなってるけど、時計を見ると、今はだいたい夕方くらいのようだ。

 何かをするにも遅いような時間だったので、ご飯を食べてアストラさんに魔法を教えてもらったあと、早めの時間に眠りにつくことにした。


――

――――

「――聞こえていますか、愛しき子よ」

 ……誰?

 聞こえてきた声の主に視線を合わせようとするが、瞼が重くて目が開けられない。

「この世界を救いたいのなら、次はメラリーテ村に向かいなさい」

 めら……なに? 聞きなれない単語は覚えられないよ……

「メラリーテ村。あなたはそこに行かなければならない。あなたの助けを待っている人がいるの」

 次の道標は示したからね。

 そういうと声の主は消えてしまった。

 私はそれでも目を開けることが出来ず、抗えない眠気に落ちていった。

――――

――

 翌朝。

「おはようございます、アシリアさん……。よく眠れましたか? 私は人と寝ることがあまりなく落ち着いて眠れませんでしたが……」

「村……」

「え?」

 私は開口一番、声をかけてくれたアストラさんへの挨拶も返さずにその村の名前を伝える。

「次の目的地はメラリーテ村にしよう」


――

「……メラリーテ村に住む方々は、ここエトラエル王国の隣国――ルナクアル=リッツ共和国、通称“水の国”に住んでいた方々です」

 アストラさんは説明を続ける。

「なぜ雲の国に水の国の民がいるのでしょうか……。それは、水の国に住んでいる者はできて当然の能力が備わっていない人々が異端として迫害されたからです」

「その力っていうのは……?」

「精霊と会話する力です」

 精霊。精霊なんてものがまずいるのかということにも驚く。

「精霊は魔力の集合体です。水の国に住んでいる人達は、名の通り水が近くにある暮らしを送っています。水は流れゆくもの。魔力も流れゆくもの。……つまり、他の国よりもっとも魔力の流れを掴める人々なのです」

「魔力により慣れているから、魔力の集合体である精霊とも会話できるってこと?」

「そういうことです」

 アストラさんはさらに話を続ける。

「しかし、人には向き不向きがある。……当然会話が出来ない人もいます。魔法が使えない人々のように」

 昨日の会話を思い出す。

「この国では、魔法が使える、使えないといった問題はさほど重要ではありませんが……水の国はそうではありません。魔法に関してはかなりセンシティブなのです……特にあなたは強大な魔力を持っているのでしょう」

 アストラさんは私の鼻先を人差し指で軽くつく。

「行き先が決まっていないとは聞いていましたが、だからといってメラリーテ村は行くにはリスクが高すぎます。……何故そこを選んだのですか?」

「夢で見たの、そこに行けって」

「夢で?」

 私は夢の詳細を話す。と言ってもはっきりとは覚えていなくて、メラリーテ村の名前、助けを待っている人がいるという情報しか伝えられなかったけれど。

「確かに、夢で見るメッセージには重要性が含まれています……。あなたは転生者なのに、その小さな村の名前を知っている時点でただの夢ではなさそうですし……」

「助けを待っている人がいるなんて言われたら放っておけなくて……やっぱりだめかな」

「いいえ、その最終的な判断は私に委ねるべきではありません……。ネクロさんの部屋に行って相談をもちかけてみましょう」

「わ、わかった」

 私たちはネクロの部屋に向かうことにした。

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