第2話 転生1日目、もう死ぬかと思った
悠人はベッドに座り、窓の外の未来都市を眺めていた。
高層ビルのガラスに街の光が反射し、まるで無数の星が街に降り注いでいるようだ。
ベッドについている名札を見ると「悠人」と書いてあり、鏡をのぞくと転生前と変わらぬ自分の顔が映っていた。
(……いや、せめてここでイケメンに生まれ変わるとか、もう少し救いはなかったのかよ……)
悠人は小さくつぶやき、思わず肩をすくめる。
胸の奥に、死んで生まれ変わった実感と、ほんの少しのワクワクが混ざる。
未来都市の光を見つめながら、悠人は小さく息をついた。
◆
――場面は警察指令室へ
???「指名手配犯が目を覚ましたようだ。至急、第一班はルミナ病院に向かうように」
モニターに映る病室の映像を見ながら、指令室の警官たちは慌ただしく動く。
ドローンの浮遊音、武装車両が病院前に止まる様子がリアルタイムでスクリーンに映し出される。
◆
悠人は窓越しに呟く。
「さあーて…これからどうやって生きていこうかな……」
視線の先には、病院前で浮遊するドローンと多くの武装車両が止まる光景が広がっていた。
悠人は窓越しに呟く。
車両の上には、まるで某SFに出てきそうな近未来兵器を抱えた部隊が整列している。
その真ん中に立つのは――赤い髪にオレンジ色のアクセントが光る、長い髪の女。
鋭い目つきでこっちをじっと睨んでいる。
(……いや、明らかに俺じゃん……)
悠人は思わず顔をしかめ、頭の中でつぶやいた。
(転生しても、最初の試練が「明らかに追われる側」って……マジで運悪すぎだろ……)
悠人が窓の外を眺めていると、病院内に甲高いアナウンスが響いた。
『――緊急事態発生。館内の医師・看護師・患者は、直ちに避難してください。繰り返します――』
直後、悠人の病室のドアだけが「ガシャン」と重く閉じ、分厚いロックが掛かる音がした。
「……やべ、これ完全に隔離モードじゃん」
悠人は思わず青ざめ、ドアノブを力いっぱい引くが、びくともしない。
ふと、横のパネル――カード式セキュリティの読み取り口に指先が触れた瞬間、頭の中に鮮烈な情報が流れ込んできた。
数式、立体モデル、材質データ、応力分布。
それはまるで、頭の中に最先端の設計ソフトが直接インストールされたかのような感覚だった。
(……これ……俺の脳がCAD化してる……!?)
目を閉じると、寸分の狂いもない立体モデルが脳裏に浮かび、材質や強度までも瞬時に補完される。
気づけば、セキュリティドアを開ける“マスターカード”の設計が完成していた。
「……マジかよ。こんなチート能力、ゲームじゃ完全にぶっ壊れだろ……!」
次の瞬間、悠人の手の中に透明なカードが具現化する。
恐る恐る読み取り口に差し込むと、ドアのロックが「カチリ」と外れる音が響いた。
「よし……今は感動してる場合じゃねえ、あの目は逃げなきゃ殺される!」
思い出すのは、高校の移動教室のとき。
日直でドアを閉めようとして、机に突っ伏して寝てるやつを起こそうと肩を叩いた瞬間――。
ゆっくりと顔を上げ、こっちを睨みつけてきた「殺意100%」の寝起きの目。
あれ以来、寝てるやつには二度と近づかないと誓った。
悠人は勢いよく病室のドアを押し開け、廊下へ飛び出した。
下の階からは、重低音の足音とドローンの低いうなりが、容赦なく響いてくる。
容疑者以外避難完了。これより突入する。重装部隊の重い足取りの音が聞こえる。
「下はダメ……上だ!」
近未来の病院は迷路のように広く、息は荒れ、体力は限界に近づいていた。
背後から迫る重装部隊の足音と、銃声が交互に響く。
――明らかに、俺の命を狙っている。
曲がり角を曲がったその瞬間――。
悠人の視界に飛び込んできたのは、黒髪ロングの少女。
顔は鬼のような仮面に覆われているが、わずかに透けた隙間から見える瞳は、驚くほど綺麗で冷たい光を放っていた。
「……この綺麗な黒髪どこかでみたことある……あ、由依に似て……
思考が追いつく前に、少女の拳が悠人の顔面を直撃する。
「ぐあっ!」
まるで女の子とは思えない圧倒的な力に、悠人は壁に吹き飛ばされる。
仮面越しでも、その瞳の鋭さに凍りつきそうだ。
(女の子が出してるとは思えない力だ……おっと、女の子の前でそんなこと言っちゃいけねぇ)
頭の中で苦笑いする余裕も、心臓の鼓動にかき消される。
少女は冷たい声で低く告げた。
「ユウト。話を聞いた後、おまえを――殺す」
――黒髪美女と、赤髪美人、二人に命を狙われている……。
「お、おい……過去の俺、何やったんだよ……!」
思わず自分の状況に怖くなる。
体力は限界。美女に殴られ、もう立つ気力すら失いかけた悠人。
ふと気づくと、仮面の女は武装した集団に向かって突っ込んでいく。
「おい、マジかよ……!」
思わず声が出る。悠人は慌てて壁を盾にし、身を潜めた。
武装集団の一人が通信機を手に、低い声で告げる。
「緊急事態発生。サイバーヴァンプに遭遇。即時、戦闘態勢に入る」
その瞬間、長く伸びた直線の廊下を突き進む仮面の女に、容赦なく銃弾が降り注ぐ。
「お、おい……ここ病院だぞ!」
だが、悠人の驚きをはるかに超える光景が目の前で繰り広げられた。
仮面の女は、壁を蹴って走り、飛んでくる弾丸を華麗に避ける。
まるで弾丸が空気のように無力化されていく。
ゼロ距離に立った瞬間――
仮面の女は、武装した男たちの胸に手を置くだけで、電撃が走り次々と気絶。
一瞬で制圧され、倒れていく集団。
悠人は目を見開き、思わず息を呑む。
銃声と電撃の残響が消え、廊下には静寂が戻った。
だが、戦闘の爪痕は容赦なく残っていた。
廊下は煙で満ち、白い靄が視界を曖昧にしている。
床には倒れた武装集団の男たちが散乱し、金属や装備の残骸が光を反射していた。
悠人の視界に、まず映ったのは――
仮面の黒髪美女。煙の中、長い髪が淡く揺れ、赤い瞳の冷たい光だけがはっきりと輝いている。
静かに立つ彼女の姿は、まるで廃墟に咲く花のように凛としていた。
しかし、さらに煙の奥に目を凝らすと……
燃え盛る闘志を纏った、もう一人の赤髪美人が浮かび上がる。
赤とオレンジが混ざった長髪は、戦いの熱気を纏う炎のように煌めき、まるでこの病院そのものを制圧するかのような圧倒的な存在感を放っていた。
悠人は息を整える間もなく、廊下の奥の壁で目を見張った。
赤髪美人のオーラが、まるでこの廊下すべてを炎に包み込むかのように燃え上がっている。床の金属が熱を帯び、壁の塗装がひび割れ、煙がさらに濃く立ち込めた。
対する黒髪美女からは、全身を纏う電撃のオーラが放たれ、空気を切り裂くようなヒリヒリとした感覚が悠人にまで伝わる。触れるだけで皮膚がちくりと痛むほどの圧が、悠人の体を緊張させた。
「久しぶりだな、雷女――」
赤髪美人の声が廊下に響く。
「あの日、何が起きたのか……お前も聞きにきたのか?」
黒髪美女は冷たく答える。
「お前には関係ない」
悠人は心の中でつぶやいた。
(俺だけモテモテ状態なのに、嬉しくねえ……てか転生してまだ1日目だってのに、あの日のことって何だよ……過去の俺、何やったんだ……)
赤い瞳を輝かせ、微笑むように言った。
「今日こそ、お前を――殺す」
その瞬間、赤髪美人の身体に纏わりついていた無数の機械が唸りを上げる。
天井や壁から露出したパネルが光り、アナウンスが響いた。
『戦闘モードコード:ALPHA-9起動――』
黒髪美女は冷静に微笑む。
「何もかも焼き尽くす赤髪、その姿久しいな、灼紅のカレン」
カレンは遠慮なく、黒髪美女に向かって銃を乱射した。
さっきの武装軍団の銃とは明らかに違う。玉の大きさ、スピード、破壊力――すべてが桁違いだ。
「お、おい……2回目だけど、ここ病院だぞ……!」
悠人は思わず声を上げた。
廊下の煙が薄れ、瓦礫の間に立つ黒髪美女の姿が現れた。
血が垂れてはいるものの、致命傷は避け、擦り傷だけで済んでいる。仮面が砕け、片目だけが覗く。その眼差しは冷酷で、しかし美しい輝きを帯びていた。
カレンは口元を吊り上げる。
「……さすがだな、黒雷のカグラ」
黒髪美女――カグラは、静かに答えた。
「――コード:ブラックアウト」
その途端、彼女の片手に黒い電流が迸り、日本刀が召喚される。冷酷な瞳が両目とも赤く染まり、今までとは別格の美しさを纏った。
カレンは嘲笑を浮かべ、声を放つ。
「サイバーヴァンプ、己の血を燃料に、四肢にガジェットを組み込み本来以上の力を引き出す。
お前たちが持つそのガジェットは、本来サイバー部隊の特別な訓練を受けた者しか使えず……埋め込みなど、もはや愚かとしか言えないな。
だが――サイバーヴァンプの中にも、まだ腕の立つ開発者がいたらしいな」
カグラの全身を走る稲光は、もはや黄色ではなく、闇を裂くような黒雷へと変貌していた。
黒雷を纏ったカグラの刃が空気を切り裂き、黒雷と灼炎が激突し、空間そのものが悲鳴を上げるように震える。
ガラスは粉々に砕け、吹き荒れる爆風が壁ごと削り取っていった。
「うおおおおい!!」
悠人は必死に床にしがみつき、心の中で絶叫する。
(これ……普通に死ぬやつだろ!? 主人公補正どこいった!!)
カレンの銃口から迸る炎弾が、壁を赤黒く溶かしながら突き進む。
その一発一発が戦車砲に匹敵する威力だ。
対するカグラは、黒雷を纏った刀を一閃。
放たれた斬撃は稲光そのものとなり、廊下の端を縦に切り裂いた。
――カグラの黒雷とカレンの灼炎が激突した瞬間、空間が悲鳴を上げる。
「ちょっと、カレンさん……これ以上暴れると被害が大きすぎます」
耳元で、通信機越しに冷静な声が響いた。同時に、「燃料ももうありません」との警告も。
悠人は目を見開く。カレンですら、限界があるのか――。
同様に、カグラも血液が不足しているのか、全身を走る黒雷の速度がわずかに鈍った。
下の階からは応援部隊の足音が響き、戦局の余波が伝わってくる。
カグラは一瞬、天井にかけた手を止め、目を鋭く細めた。
「チッ……ここまでか」
その途端、黒雷の速さで廊下を駆け抜け、あっという間に視界から消えた。
悠人の視線が追う間もなく、赤髪のカレンは力が抜けたように床に倒れる。
灼炎の女――灼高の根性でも、ここで燃え尽きたか、と悠人は呆然と息をつく。
しかし、その直後、重装部隊が悠人の方へ近づいてくる。
あんな戦闘を目の当たりにした後では、抵抗する気力も湧かない。
「両手、上げます……勘弁してください……」
重装部隊は無言で悠人に電撃を撃ち込む構えを見せた。
――次の瞬間、ビリビリッと体に衝撃が走る。
(黒雷とかより絶対マシだもん……)
悠人は床にへたり込み、転生1日目の大混乱を静かに噛みしめた。
転生1日目は、こうして幕を閉じた――
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