第5話 そんな子最初から……

 火の回りをぐるぐる回り、酔いも回り、解散になった。そしてバタっと倒れるようにして部屋で眠ってしまった。

 翌朝、朝食の為に食堂に行き、昨日の髪の長い女子を探した。しかし見当たらない。どうしたのだろう。具合でも悪いのか。もしかして、俺じゃない他の男を誘ってどこかへしけこんだとか?いやいや、うちのサークルにはそんな女子いないだろ。

 朝食を済ませると、荷物をまとめた。この宿を出てバスで温泉へ行くのだ。

「いやー、来る時はどうなる事かと思ったけど、来れて良かったよ。」

しゃべりながら外へ出る。

「一人で来るなんてすごいよ、和馬。しかも歩きで!」

すごいと言いながら皆笑っている。そりゃ、忘れ物から始まった俺の失態だからな、笑うなら笑え。そして、やっぱり油断するとブヨがやってくる。怖え。

 バスに乗り込む前に、点呼をとった。あれ、やっぱり髪の長い女子がいない。

「ねえ、女子が一人いないんじゃない?」

俺は思わず言った。

「え、誰?」

点呼を取っている部長が言う。

「名前は知らないけど、ほら、髪がこのくらい長い子。」

俺は手で胸の下くらいを示した。

「そんな髪の長い子なんて、最初からいないけど?」

他の女子が言った。って、え?何だって?

「いや、夕べキャンプファイヤーの時にいたでしょ。俺、その子とオクラホマミキサー踊ったんだって。」

「やだー、止めてよぉ。」

「そうよ、怖いじゃーん。」

女子たちが笑いながら両腕で自分自身を抱きしめる。

「いや、ウソじゃないって。ほら、お前が俺に声掛けた時、女子いたよな?」

夕べ、あの子がいなくなった時に俺に声を掛けた友達に言った。

「ああ、そういえば誰かと一緒だったよな。和馬が腕を引っ張られてるみたいだったから、どうした?って声を掛けた気がする。」

そいつが言った。やっぱりいたじゃないか。しかし、女子たちが顔を見合わせて首を振り合っている。ここにいる誰でもないという事らしい。

「お前たち、酔っぱらってたんじゃないか?それか、それ男だったんじゃない?」

「もしくは、地元民とか?」

「それはあるかも!紛れてたら面白いな。」

皆が笑っている。まあ、酔っていたのは確かだし、地元民だと言われたらそれを否定も出来ない。でもさ、夜だぜ?その後どうやって帰ったっていうんだよ。あの虫だらけの坂を真っ暗な中帰った?車ならありか?

 まあ、考えてもしょうがないので、俺たちはバスに乗り込んだ。どうやら出席者の数と今いる人数は合致しているらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る