第8話 「殿下の思い」

ノアは机に置かれた外交書類に目を通しながら、心の片隅で昨夜の出来事を思い出していた。


「殿下」

カイルが扉を軽くノックして入ってきた。

従者としての態度を保ちながら、少しだけ柔らかい笑みを浮かべる。


「殿下、追加の書類です」


「あぁ……そこに置いといてくれ」


「昨日の婚約の件ですが……殿下が初対面であんなことを申し込むなんて驚きました。

それにロザリンド嬢が即座に応じるなんて……」


ノアは書類から視線を上げ、淡々と答える。

「確かにな……だが、あれほどの芯の強さと、冷静な判断力を備えた令嬢だったとは」


カイルは眉を上げ、軽く肩をすくめて笑った。

「殿下、いつもは誰に対してもあんな笑みを見せないのにロザリンド嬢と話されたときはほんの少し柔らかい表情でそれにも驚きました」


ノアは微かに口元を緩める。

心の中では、あの銀髪の令嬢を思い浮かべると自然に胸が高鳴るのを否定できなかった。 (あの令嬢と話すとなぜか呼吸が楽になる。)



カイルは目を細め、殿下のわずかな笑みを見逃さなかった。

「おや?殿下がそんな顔をするなんて、珍しいですね。普段は誰に対しても冷たいのに」


「殿下、油断は禁物ですよ。まだ、セシリア・ロザリンドについてわからないことだらけなんですから」


「油断などしていないが……ただ興味と好奇心は芽生えている。これからが楽しみだ」



カイルは軽く息をつき、独り言のように呟く。

(気を引き締めてくださいよ、殿下……)

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『婚約破棄された悪役令嬢、氷の王太子に愛されてます』 春山 もも。 @momo_haru

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