第4話 入道雲の窓

 真っ青な空に入道雲が膨らむ。

 僕は青空を見上げている。夏だと言うのに蝉の鳴き声がしない。

 それどころか、車の行き交う音もせず、往来には人の気配もない。

 僕はひとりぼっちで、川にかかる橋の上に佇んでいた。

 誰もいない世界で、雲がぐんぐんこちらに迫る。

 僕は目を凝らす。雲に何かくっついている。

(窓だ)

 見えたのは雲にくっついた窓だった。何で窓?と思うまもなく、窓に人影がさし、小さな手が硝子戸を開く。

 そして、雲窓から女の子がひょっこりと身を乗り出して、僕に手を振った。


「なつみ」


 僕は女の子の名を呼ぶ。なつみは去年亡くなった僕の妹だ。


「お兄ちゃーん」


 なつみが元気そうに手を振る。入道雲の城に乗って、還ってきたのだ。


「おーい、おーい」


 僕はなつみに返事をする。僕らは手を振り合って必死にお互いの存在を知らせ合う。

 雲は遠く、なつみには触れられない。

 お盆が、もう近いのだなと思った。









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