第7章 代表の座へ

 ついに――WVBL3×3日本代表を決める選考トーナメントの幕が上がった。


 全国から猛者が集うオンライン会場。無数のアバターが観戦に詰めかけ、熱気が渦を巻く。

 そのコートに、NOVA、QUEEN、そしてYUTAの三人が立っていた。


 初戦から、QUEENの突破力とNOVAの冷徹なシュートが炸裂する。

 「そこ、抜ける!」

 華麗なクロスオーバーで相手をかわし、QUEENがリングへ駆け抜ける。

 「決めてやるわ」

 NOVAが隙を逃さず、弧を描くロングシュートを沈めた。


 序盤は個人技で押し切り、次々と勝ち星を重ねていく。

 だが――。


 試合が進むにつれ、相手チームは強固な連携を武器に襲い掛かってきた。

 「動きが読まれてる……!」

 

 QUEENの突破はダブルチームに封じられ、NOVAのシュートには徹底したチェックが飛ぶ。

 攻め手を欠き、じりじりと点差を詰められていく。


 そのとき、YUTAの声が飛んだ。

 「NOVA、フェイクで引き付けて! QUEENはディープから囮、俺が合わせる!」

 鋭い指示と同時に、三人の動きがかみ合った。


 NOVAが切り裂き、QUEENが囮となり、最後にYUTAが空いたスペースへとパスを通す。

 「今だ!」

 見事に決まった連携プレーに、会場が沸いた。


 ――YUTAの戦術眼が光り始めていた。

 彼の声が入るたびに、三人の動きはよりスムーズに繋がり、勝利を呼び込んでいく。


 だが、新たな問題が浮かび上がる。


 「はぁっ……はぁっ……!」

 激戦の連続で、NOVAの肩が荒く上下する。

 QUEENも額に汗をにじませ、わずかに足取りが鈍る。

 3×3の公式ルールでは、4人目の交代要員が存在する。だが――。


 「そう言えば、私たち……3人しかいないわね」

 QUEENがため息をついた。


 「えっ、今さら!?」

 NOVAが顔を覆い、思わず突っ込む。

 「なんでトーナメント始まってから気づくんだよ、私たち!」


 「まあ、しょうがないじゃない。ここまで来たんだから」

 QUEENも苦笑いする。

 天然すぎる自分たちに、二人して肩を落とした。


 だが――。


 「……いや、実は」

 YUTAが小さく咳払いをして、口を開いた。

 「俺、“4人目”は、登録してあるんだけど……」


 「な、なにぃっ!?」

 NOVAとQUEENが同時に叫んだ。


 「やるじゃんYUTA!ファインプレー!」

 「これで、交代できるじゃない!」

 二人は顔を見合わせ、思わず歓喜のハイタッチを交わした。


 その瞬間――。

 会場の観客席から、一際目立つアバターが飛び出してきた。


 ウサギのお面をつけて、耳をピョコピョコ揺らすアバター。

 その名は――「Hare Show」。


 「いやぁ~!呼ばれて飛び出て、ヘア・ショー参上っ!」

 満面の笑顔とともに、観客に向かって手を振る。


 「……なにこのノリ」

 QUEENが目を丸くして小声でつぶやき、


 「……いや、ウサギ?」

 NOVAも半信半疑で呟いた。


 だがHare Showは、全く気にする様子もなく、飛び跳ねながら大声を張り上げた。

 「任せて!走れるし、声も出せるし、テンションは無限大だ!みんな応援よろしくーっ!」


 会場からどっと笑いと拍手が起こり、場の空気が一気に明るくなる。

 不安を抱えつつも、NOVAとQUEENは「……まあ、なんとかなるかも」と思わず口元を緩めた。


 新たな仲間の加入で、チームは息を吹き返した。


 そして迎えた――決勝戦


 スコアは均衡、会場全体が息を呑んでいた。


 「……交代だ!」

 NOVAが息を切らし、ベンチへ下がる。代わってコートに立ったのは、Hare Show。


 「よっしゃ、見せ場だな!」

 ウサギ耳を揺らしながら、軽快にディフェンスへ構える。


 相手が仕掛けてきたピック&ロール――スクリーンを使った連携攻撃。

 だがHare Showは冷静だった。相手の動きを先読みし、スイッチディフェンスを素早く選択。さらに一瞬のフェイクを入れて相手のパスコースを切り、スティール。


 「ナイス判断!」YUTAが声を飛ばす。

 即座にタイムアウトの合図。Hare Showと交代で、YUTAがコートに立った。


 攻撃に転じると、YUTAはトップでボールを保持しながら、冷静に味方の位置を見渡す。

 「QUEEN、左ウィングへ! NOVA、バックドア狙え!」

 指示は的確。相手ディフェンスのズレを生み出し、瞬間的に数的優位を作り出す。


 ボールはQUEENへ。

 彼女は華麗なクロスオーバーで相手を揺さぶる。右へ左へとリズムを変えるハンドリング――まるで踊るようなムーブ。

 抜き去ると同時に、ギャロップステップでリング下に踏み込んだ。


 だが、相手ビッグマンがブロックに跳び上がる。


 ――そこへ走り込んだのは、交代で戻ってきたNOVA。

 「まだ終わらせない!」


 QUEENのレイアップを囮にし、ボールを受け取ると即座にユーロステップ。

 ディフェンダーのタイミングを外し、リングへと切り込む。


 空中で体勢を崩されかける――だが、諦めない。

 バランスを取り直し、片手で強引にボールを放った。


 ボールはバックボードに当たり、ゆっくりとネットを揺らす。


 「決まった……!」

 ブザーと同時、歓声が爆発した。


 YUTAは胸に拳を当て、QUEENはクールに小さくガッツポーズ。

 Hare Showはウサギ耳をぶんぶん振りながら観客に向かって飛び跳ねる。

 そしてNOVAは、両手を高く掲げ、天を仰いだ。


 ――彼らは勝った。

 3×3日本代表として、世界への切符をつかんだのだ。


 歓喜の輪の中で、NOVAはほんの一瞬だけ目を閉じた。


 リアルのコートで、身長の壁に阻まれ続けた日々。

 ひとりバーチャルの世界に飛び込み、初めて名前を呼ばれた瞬間の震え。

 ユウタとの出会いと別れ、そして再開 

 QUEENとぶつかり合いながらも背中を預け合えるようになった時間。


 「……ここまで来たんだな」

 呟きは誰にも聞こえなかったが、NOVAの瞳には確かな光が宿っていた。


 理想の自分も、弱さを抱えた自分も――すべて受け入れて。

 その先に見えた景色は、仲間とともに立つコートだった。


 観客の歓声が再び押し寄せる。

 NOVAは両手を高く掲げ、仲間たちのもとへ駆け寄った。


 ――戦いは、これかも続く。

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