第6章 夜明けの発見

 NOVA、QUEEN、そしてYUTA。

 3人は新たなチームとして再び練習を開始した。


 だが――その空気は決して明るくなかった。


 「……っ!」

 YUTAは相手NPCのプレスを前に、パスをミスし、あっけなくボールを奪われた。

 決定機を作られ、失点。


 「また……」

 小さくつぶやく声に、QUEENは苛立ちを隠さず吐き捨てた。


 「こんな状態じゃ、満足に戦えない!」


 「QUEEN!」

 NOVAが声を張り上げる。

 「YUTAは、きっと戻れる。あのときの強さを、取り戻すんだ!」


 だがQUEENは言い返した。

 「強さ? それって……不正ツールに頼ってたあの頃のこと?」


 その瞬間、空気が凍りついた。

 QUEEN自身も、はっとした。

 ――すれは、すでに決着がついてこと。今は、YUTAも必死に前を向いて歩いている。


 「……ごめん。私……」

 QUEENはうつむき、悔いるように拳を握った。

 NOVAは苦い顔をしながらも、それ以上言葉を重ねることができなかった。


 ◇ ◇ ◇


 ユウタは夜の街、公園のリングにひとり立っていた。

 幾度もシュートを放ち、ドリブルを繰り返す。

 だがフォームは乱れ、ボールは無情にリングに弾かれる。


 「……俺にはやっぱり……」


 そのとき。

 背後から声がかかった。

 「遅くまで練習ですか?」


 背後から声がして、ユウタは振り向いた。

 ひとりの高校生らしき人物が、ボールを片手に立っていた。

 地方の田舎で暮らす男子バスケ部の翔太――遠征試合で上京し、偶然この公園に立ち寄ったのだという。


 「いや、ただの遊びだよ。……君は、バスケ部?」

 ユウタが相手の手にあるボールを見て問い返す。


 「うん。下手だけどね」翔太は苦笑いを浮かべた。

 「でも、君の方がずっと本気に見えるなぁ……」


 ユウタは少し戸惑いながらも、「まあ……」と曖昧に返した。

 翔太はそのまま続ける。


 「こっちに練習試合で来たんだけど、時間が余ってね。せっかくだからストリートのバスケ見てみようと思ったんだ。でも、全然やってる人いなくてさ」


 「この辺はそうだよ。もっと街中に行かないと。でも最近は……」

 ユウタは少し笑って肩をすくめた。

 

 「みんなV.B.Lやってるから……」


 「V.B.Lかぁ……」翔太は感心したように頷いた。

 「うちの学校の女子バスケに、すごい子がいてさ。俺よりちっちゃいのに、ガンガン攻めていくんだ。見てるとつい応援しちゃうんだよ」


 ユウタは胸の奥で(……V.B.Lにも、そんな子がいるけどな)とつぶやいた。


 二人は自然とボールを回し合いながら、語り合った。


 「俺は体も大きくないし、ベンチに座ってる時間の方が多いけどさ」翔太は自嘲気味に笑った。

 「でも、俺はそこで試合を見てるのが好きなんだ。誰がどこに動いて、どう連携すれば点が取れるか――そういうのを考えるのが面白いんだよ」


 ユウタは思わず聞き返した。

 「戦術を考えるのが、楽しい……?」


 「そう。チームも、俺が声をかけると少しだけ動きが良くなるんだ。

  結局、オフェンスとかディフェンスとか、個人の能力には限界がある。

  でも全体を読む“視点”なら、誰だって磨けるだろ?」


 ユウタは、「はっ」とした。

 ――全体を読む目。流れを掴む直感。そこから戦術の指示。


 自分にできるのは、それだ。

 ゲームに長く親しみ、数え切れないほどの試合を見てきた自分なら――まだ戦える武器がある。


 ◇ ◇ ◇


 それからの日々、YUTAは努力をすべてその一点に注いだ。


 ・バーチャル/リアル問わず、名だたるトッププレイヤーの試合を徹底的に観察、研究。

 ・書店では、バスケットボールの戦術関連の本を買い込み、読み漁る。

 ・V.B.L内のシミュレーションで、局面ごとの選択肢を研究。

 ・有名海外プレイヤーとも、果敢に練習試合を申し込み、情報収集

 ・わずかでもスキルやフィジカルが向上するようにと、リアルでは公園で自主練を重ねる。


 昼も夜も、研究と実践。

 すぐさま成果が出ることはない。

 それでもYUTAの目の奥には、確かな輝きが宿り始めていた。


 ◇ ◇ ◇


 一方で、QUEENは焦燥を募らせていた。

 「私がもっと頑張らなきゃ……。YUTAには頼れない」

 自分ひとりで勝ち切ろうと気負い、さらに練習に没頭する。


 NOVAはふと気づいた。

 ――YUTAの動きが、わずかながら変わっている。

 判断の早さ、無駄のないパス。リアルでの練習の成果か、スキルパラメータがわずかに上昇しているのだ。


 「……YUTA……」

 NOVAの胸に、小さな期待が芽生えた。


 ◇ ◇ ◇


 そして――。

 日本代表を決める「3×3代表決定戦トーナメント」の幕が上がろうとしていた。

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