第2話 護衛パーティと顔合わせ

 翌日、僕はダッカール港町の釣りギルド本部へ向かっていた。


 護衛を務めてくれるCランク冒険者パーティ


《ミドル・ガード》と顔合わせをするのだ。



「えーっと……護衛をしてくれる冒険者パーティ、ですよね?」


 釣りギルドの会議室。そこにずらりと並んだ五人の冒険者たちを前に、


僕――フィリオ・コーデンはぽかんと口を開けていた。



「そうだ。Cランク冒険者パーティ《ミドル・ガード》だ。よろしく頼む」


 最初に声をかけてきたのは、ガイル。見るからに真面目そうなリーダー剣士で、


姿勢が軍人みたいに直立している。



(うわ、ガチガチな人来た……)


「俺はガイル。パーティのリーダーをやってる。剣士だ。冷静沈着、


無駄口と陰口は叩かない主義だ」


(今の自己紹介、けっこう口数多かったけどな……)



「よーっす! オレはバルク! デカくてゴツいけど、


メンタル豆腐だから優しくしてくれよな!


 あとメシも作るぞ! 味は保証しねえけどな!」


(おい、自己紹介で弱点さらすな)



「……俺はヒュー。弓とか撃つ。料理は……食べるほう専門。


……雨の日は……頭痛い。あと毒舌禁止でお願い」


(「とかって」って何……気になる……)


「フローラと申します〜。あの、道中でお腹壊したりしたら


回復魔法かけますので、安心してくださいね〜」


(そんな具体的な心配されたの初めてなんだけど)



 そして最後に、クールビューティーな女性


――ミナが、腕を組んだまま鋭く言い放った。


「この中で一番まともなのが私。以上」



 全員がミナを振り返る。


 その自己申告を、信じたいが信じられない自分がいた。


(この時点で察する……このパーティ、バランス型の“ツッコミ待ち”集団だ……!)



「で、今回の護衛対象は僕ってことで合ってるんですよね?」


「そうだな。依頼書にも“釣りギルド職員フィリオ氏を、


エレレ村まで護衛すること”とある」 ガイルがうなずく。



「で、なんで俺らが釣りギルドの職員を護衛してんだ?」


「実は、エレレ村っていう辺境に“とんでもない釣り少年”がいるらしくて……」


「少年って言ってもどのくらいの少年なんだ? 10歳とか?」


 バルクが冗談めかして聞いてくる。


「正確には……10歳らしいです」


「ガチかーい!」


 ツッコミはもちろん全員一致で僕に向けられた。


「はい。その少年があまりにすごすぎて、


ギルドマスターのフィルネルさんが“取材に行け”って」


「マスター命令なら仕方ねえな……にしてもすごいな、釣り少年って。どんなのだ?」


「大人でも釣れない魚をボッコボコ釣るとか」


「……あるいは……そいつが……伝説の“釣り仙人”の生まれ変わりだったり……?」


「ヒュー、黙ってりゃカッコいいのに……言うことがトンチンカンなんだよ……」


「……でさ。ちょっと気になったんだけど、釣りギルドって、釣り……するんだよね?」


「ええ。しますよ。釣らないと成り立ちません」


「……君、釣りギルドの職員なのに、あんまり釣りしてないって聞いたけど?」


 ミナの目がキラリと光る。ぎゃー、地雷踏まれた。


「え、ええと……好きですけど、ほら、忙しくて! 


釣りしたくても書類仕事が山積みでして! あと取材もあるし!」


「じゃあ何しにエレレ村行くんですか? 釣りじゃなくて、取材?」


「ええ、そうです! その村に“すごい少年釣り師”がいるって噂を聞きまして、


取材記事を書こうとーー」


「ということは、その少年が本当に実力者なら、私たちが護衛するのは、


将来の釣り界を背負う若者と、それを取材する書類地獄の男」


「言い方ァ!」


 僕の心にクリティカルヒット。


「フィリオさん、道中は大変かもしれませんが、


釣りを楽しむ時間も取れるといいですねぇ〜。とりあえず旅は安全第一ですぅ〜」


 フローラの言葉に、僕の緊張も少しほぐれた。


 

こうして僕と《ミドル・ガード》の顔合わせは無事に終了。


帰宅して旅支度を整える。



 翌朝、ギルド本部はいつも通り、釣りバカ……もとい、


釣り愛好家たちの熱気に包まれていた。



「おい見ろよ! またギルド前の池に釣り竿突っ込んでる奴がいるぞ」


「いやあれ、ルール違反って貼り紙の真下じゃねえか」


「フィルネルさんにバレたら、また“反省釣り修行”コースだな……」



 そんな小さな事件が絶えない港町・ダッカール。


釣りギルド本部の朝は早い。そしてうるさい。


 

僕はというと、出発前の手続きを終えたあと、ギルドのロビーで


“最終チェック”と称して荷物を床に広げ、周囲の迷惑になっていた。



「お、お弁当は……あ、昨日の残りの干し魚入りサンド。うん、たぶん大丈夫」


「予備の釣り糸、ペン、予備のペン、ペンの予備の予備……ペンばっかりだなこれ」



「……フィリオさん、何してるんですか?」


 ギルドの受付嬢ニーナさんが、完璧な営業スマイルでやって来た。


けど目が笑っていない。完全に怒ってる。



「あ、いや、その……出発前の最終確認を……ちょっとだけ……」


「床一面に広げる必要、あります?」


 ぎゃふん。



「いい旅になるといいな」


 遠いエレレ村への道のり、


そして伝説の少年釣り師との出会いが、僕を待っている――。




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