第13話 運命嫌いのお嬢様
恋多き姉の巻き添えで、婚約者を探すはめになった。
そこまでは理解できた。
彼女たちの父親も、娘が妙な男に引っかからないように――
――『特徴的なチン〇ですわ』
いや、やっぱりおかしい。
娘を想って『婚約者リスト』を作成したみたいな話になっているが、だったら何故――本当にどうして男性器の話になるんだよ!
そもそも何故許嫁のソレが特徴的だと知っているのだろうか。
確かめたのか? 他人の家の息子の息子を?
――やっぱりセレブってやべぇのか……
「わたくしには、目標としている人がいますわ」
春風ちゃんがフライドポテトを指ですくいながら、優雅に言った。
いつの間にか、てりやきバーガーは食べ終えていた。
「カリカリうまうま~」
「うん。それで?」
もうこの際気にしないで先に進めよう。
「それは、お母さまです」
春風ちゃんは嬉しそうに言った。
母親が好きなのか、時々食べているフライドポテトがうまいのか。おそらく両方だろう。
「お母さまは元々一般家庭のバリキャリでしたわ」
そういえば両親は自由恋愛と言っていたな。
「お父さまには他に許嫁の令嬢がいましたが……お母さまはお父さまと運命的な出会いを果たし、恋仲に発展しました。しかし、それを邪魔するのが、家柄……」
演劇の役者のように、春風ちゃんは演技がかった口調で語り――フライドポテトを素早くつまんで食べた。
「愛する二人を引き裂く、お父さまと許嫁さんの家の人! しかしお母さまは諦めなかった! 見合い会場に単身乗り込み、向かってくるSPたちを千切っては投げ、千切っては投げ……」
たくましいな。
うちの最強すぎるお母さまも似たようなことをしそうなため、少しだけ親近感がわいた。
「そして、その頑張りが認められ、お母さまはお父さまを仕留め、お祖父さまとお祖母さまにも認められ、みんなから祝福されて結婚したそうですわ」
春風ちゃんが語り終えると、周囲から拍手が送られた。
俺も思わず拍手を送った。ついでにMサイズのフライドポテトを差し出した。
Lサイズのフライドポテトをいつの間にか食べ終えていた春風ちゃんは俺の差し出したフライドポテトを手に取る。案外大食いだな、この子。
「わたくしのお母さまは偉大なんです。こいき君のお母さまとも同級生らしく、学生時代は二人でよくサバイバルをしたと仰ってましたわ」
ここでいうサバイバルはゲームではなく、文字通り「ガチ」なやつだろう。
そういえば春風ちゃんはうちの最強すぎるお母さまのファンとも言っていたが、憧れのお母さまに似ている所に惹かれたのかも知れない。
「そして、わたくしの最強に格好いいお母さまは仰っていましたわ。運命なんて言葉で片づけるな、才能なんて言葉で諦めるな。一度きりの人生、どう生きるかは自分の判断と努力次第、だと」
「それは、格好いいな」
「ええ! そんなお母さまみたくなりたくて、わたくしも家には頼らず、自分の力で道を切り開こうと思い、留学してましたの。それを……あの、バカ姉が……」
分かりやすく、春風ちゃんは肩を落とした。
「大丈夫? フライドポテト食べる?」
「食べる、ですわ」
俺が差し出したフライドポテトをゆっくり食べ始めた。もうほとんど残っていないのは俺ではなくて、キミが食べたからなんだけどね。
「わたくしには、目標がある。それを成し遂げるためには、許嫁が邪魔ですわ。わたくしの人生の邪魔は、誰にもさせない……!」
青空のような澄んだ瞳が、強い光を宿した。そして俺を睨みつけるように見た。
――この子は、強いな。
強い意志と、それを成し遂げようとする強い覚悟。それがこの子にはある。
もしあの時、春風ちゃんみたいな自分の気持ちを貫く強さが『あの子』にあったなら――。
もしあの時、春風ちゃんみたいな自分の意識を貫く覚悟が、俺にあったなら――。
俺とあの子の未来も、ちょっと変わっていたかも知れない。
「こいき君? どうしかしまして?」
「……っ! いや、なんでもないよ」
初恋の古傷へと思いをはせていた俺はハッと我に返る。
「春風ちゃんが、どうして婚約者を探しているかは分かったけど……何で、俺と協力だなんて……」
「それは偶然ですわ」
ですよね。
運命よりも、自分の力を信じる春風ちゃんからしたら、そういう考えは好まないだろうし。
「あの時、わたくしが校舎裏にいたのは……本当は、自信がありませんでしたの」
か弱い声で、春風ちゃんは言った。
「わたくしには、叶えたい夢があって、なりたい自分があります。それを成し遂げるには婚約者の存在は邪魔でしかない……だから何としても『婚約者リスト』を解き、許嫁の方との婚約を白紙に戻す……そう思って帰国したはいいもの、やっぱり中等部を途中で留学し、わたくしのことを憶えているかも分からない。『婚約者リスト』に普通クラスとあったから、高校は普通クラスへの進級を希望しましたが……普通クラスは色んな方が集いますから、馴染めるかも不安でした」
春風ちゃんは力のない笑みを浮かべる。
本当はずっと不安だったのだろう。教室で見せた完璧なお嬢様も、彼女なりに考えてクラスに馴染むための戦略だったのかも知れない。
「ですが……あなたに、会えた」
昼休みに言われた時と同じ言葉――けれども、あの時よりも少しだけ優しい声で、春風ちゃんは言う。
「わたくしを知っていてくれた、かつてのクラスメイト。そして、わたくしと同じ目標をもって、自分の力で自分の運命を切り開こうとしている方……こういう言葉はあまり好きではありませんが、運命だと思いましたわ」
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