第3話 転生ワナビ達 ③
多対一の戦闘には鉄則がある。
複数人を同時に相手どらないことだ。可能であれば逃走も有効な手段になる。
狭い路地などに逃げ込めばおのずと相手も列になり、向かいあうのは一人づつにすることができる。
では開けた空間の訓練室ではどうするか。
壁を使う。
ただ闇雲に壁沿いに逃げればいいというのではない。それでは最終的に角に追い込まれてしまう。
相手が壁を背にする様に回り込むのだ。完全に回り込む必要はない。壁の面の圧力が意識されるだけで集団というのは行動が制限されるからだ。
訓練されていない集団では個人の役割が曖昧なため、少しの圧力で簡単にくずれてしまう。
手の届く範囲に居る味方がそのまま壁となって個人の移動する方向をふさいでしまうのだ。
味方同士で嚙み合ったならあとは簡単。こちらへの意識が切れたものから順に仕留めていけば良い。
身体は幼くとも異世界人の肉体。現代人では考えられない程の強度がある。使い方さえ知っていれば相手は生身の人間だ。急所の位置は変わらない。
顔の中心を狙うと簡単に意識を逸らせることができた。
全員素人の集団だ。位置取りも視線の置き方もなっていない。
俺は試すように相手の重心を崩してはダメージが少ないように投げてまわる。
幼い手足では前世とは勝手が違いたまに痛そうな角度で落としてしまうがそこは地獄の訓練場。
首があらぬ方向へ曲がろうが瞬時にもとに戻るのが確認できた。
これは良いと前世で学んだ関節技も試すことにした。現世では事故で関節を外してしまうこともあったが、地獄でなら外し放題壊し放題だ。尊い犠牲者のこの男たちもすこし痛い思いをするだけで済むので気が楽だろう。
各々の両手を3度ずつ砕いたところで誰もこちらに向かってこなくなった。心が折れたらしい。
皆いちようにその場に立ち尽くして泣きわめいている。
ケガが治っても痛みは続くのだろうか?
気になって一人の腕を取り捩じったまま保持してみた。その間絶叫が続いたたが、手を放すと止んだ。どうやら泣いているのは肉体ではなく心の問題のようだ。
顔を見るといの一番に喋りだした威勢のいい彼だった。涙と鼻水でくしゃくしゃになった姿にほんの数分前までの面影はない。
打撃や見切りなどまだ試したいこともあったのだがこうなっては仕方がない。次はチートスキルの実験の時にでも付き合ってもらおうと彼に声をかけた。
「隣のクラスの、今はクラウスヴァルデ…何とか君だっけ。」
クラウス君の顔がみるみる内に青ざめたかと思うと、一心不乱に駆け出して行った。
仲良くするつもりもないが実習の時に良いアテができたので満足とする。
追い打ちをかけるいわれもないので、ここでお開きとする。
尊い犠牲に軽く礼をして級友のもとへ戻った。
「すごいね、何かやってたの?」
級友の顔には純粋な驚きがうかんでいた。
俺はただの世間知らずな引きこもりだよとかえすが、級友はあきれた様子で聞き返す。
「そんな引きこもりがどこにいるのさ。」
嘘は言っていない。前世ではそうだったのだ。
全寮制!異世界転生者予備校 あちらの世界は普通に地獄でした 枕木 陽貴 @mkrg-1rep
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