消えた記憶
ペンギン
第1話夢と出会い
夢を、見た。
お線香の匂いが漂う赤黒い空の下、大勢の人がすすり泣く夢だ。
いや、あれは人だろうか?
首が長かったり頭が長かったりと異形な者が多い気がする。
広い広い日本屋敷で私はその1番後ろからボンヤリとその光景を眺めていた。
「うあぁあぁあ!!」
「!?」
脳死状態でボーッとしていた私の耳に突然響いてきた男の人の泣き叫ぶ声。
驚きすぎて心臓がキュッてなっちゃった。
なにがあったのかと気になって人混みの隙間を覗き込もうと体を左右に揺らすけど、見えるのは大きな桶の前で蹲っている男の人だけ。
一体何が起きているのだろう?
―ポンポン…
「ひっ!?」
前を見ることに夢中な私の肩を、とても血色の悪い白い手が軽く叩く。
驚いた拍子に肩を跳ね上げて振り向いたら―トン―とその人に倒されてしまった。
『まだ…』
「え?」
『まだ…よ』
「なに、、が―っ!?」
一瞬見えたのは、髪の長い女の人。
嬉しそうにニッコリと口角を上げているのが印象的なその人を見ながら、私は大きくて暗い穴に吸い込まれていく。
夢でも重力には逆らえないみたい。なんて思えば今度は背中から押し上げられるようにフッと意識が浮上した。
「まだって…なに?」
分厚いカーテンで光を遮っている部屋の中。声までもがヒンヤリとしていたあの女の言葉を繰り返して首を傾げながら私は起きた。
ベタベタとする肌は酷い寝汗をかいていたんだと教えてくれている。
そんな状態に”はァァ…”と心からのため息をついてカラカラの喉を潤そうとベットを抜け出したのだった。
◇
そよそよと風が頬にあたってカビのような臭いが鼻をくすぐる。
なぜだか瞼が重くて開けたくなかったのだが強い雑草のような臭いまでしてきて私は飛び起きてしまった。
「ここはどこ?」
あの後たしかに学校に行くために家を出たはずなのだ。それが…ボロボロのどう見ても廃墟になっている屋敷に寝転んでいる。
どうやってここにきたのかも、なんでこんな汚いところで寝ていたのかもなにも思い出せない。
ビクビクしながら寝ていた畳の広い部屋を出て廊下に立ってみれば、なんとなく見たことあるような。そんな景色が広がっていた。
「どうしよう。どうやってここに来たんだろ。早く出ていかないと警察呼ばれそう…。」
不安と恐怖で潰れてしまう前に、なんとかまた一歩足を踏み出す。
そうすれば幼い女の子の声が呼び止めてきた。
「柊様」
「ひあ!?」
「柊様。お待ちしておりました。」
「女の子?え?なんでここに…って言うかなんで私の名前…」
ヒクリとも笑わない女の子に手を引かれ、行こうとしていた道とは真逆の廊下を指さされる。
ついてこいと言う事なのだろうか。
行きたくないはずなのに足は勝手に女の子の指さす方へと向かっていってしまっている。
「待って、これはどこに向かってるの?」
「長い間あなたを待ち続けておられた方がいます。その方の元です。」
「はぁ?」
答えになっているような、なっていないような。
質問に返された内容は身に覚えがなさすぎて
盛大な疑問をぶつけてしまった。
そんな少ない会話からすぐ、ブワッと生ぬるい風が吹き抜けてきて背筋をゾゾゾっと悪寒が走れば目の前は薄暗く静まり返ったあの日本屋敷の中だった。
ただ1つ違うとすれば、そこは廃墟ではなく立派なお屋敷だと言うこと。
人が住んでいる気配もある。
振り返ってみても同じ、立派なお屋敷の廊下が延びているだけだった。
「どういう…こと?」
私の呟きに、女の子が振り返る。
するとさっきまでとは違う生気の宿った顔でニコリと微笑んでいた。
「お帰りなさい、柊様」
「え?お、お帰りなさい??」
「さぁ、こちらです。お頭がお待ちです。」
意味のわからないお出迎えを受けて困惑が拭えないまままた足は勝手に動き出す。
敵意は感じないが不安を抱えたまま私は女の子の後ろついていくしかなかった。
消えた記憶 ペンギン @Yun77
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。消えた記憶の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます