だから私は今日も笑う
文月結
だから私は今日も笑う
笑顔を見ると、明るくなれる。
◇
朝、私は道行く人に笑顔であいさつをする。
「おはようございます!」
そう言うと、たいてい少し身構えられて、その後みんなおはようと返してくれる。
笑顔と明るい挨拶が返ってきたときは気持ちいい。
それだけで、朝から頑張ろうと思える。
◇
朝、だいたい私が一番に教室に着く。
そして、登校してきたクラスメイトに、笑顔で手を振りながら、
「おはよう」と言うのだ。
毎朝、皆には穏やかに挨拶をしているように見せているが、
内心では心臓バックバクである。
今日は笑顔がちゃんと作れただろうか。
声のトーンは聞きやすかっただろうか。
毎日会うクラスメイトだから、道行く人とは違いあまり変なことはできない。
けれど、いつもそれは杞憂に終わって、すぐに楽しいおしゃべりがはじまる。
そうして私は安堵するのだ。
◇
新しいコミュニティーに入る時、私は笑顔を絶やさない。
誰かと目が合った時、にこりと笑って会釈する。これだけでも、その後の集団の居心地は変わる。
ずっとそのままだとさすがに疲れてしまうが、人は第一印象が9割である。最初さえニコニコして、「私はあなたの敵じゃないですよ」とアピールすれば、そのあとは何かとうまくいく。
私なりの笑顔の処世術だ。
◇
電車の中にいる時、私は微笑みながらそこに立つ。
電車の中や、駅のホーム。周りの人たちは大体スマホを見ながら、不愛想な顔をして、あたかも「私は何事にも無関心です」みたいな顔をしてそこにいる。けれど、私が何かをしたとき。動いたときや、荷物を前に抱えなおすとき、周りの人は怪訝そうに私を見る。
私はそれが少し苦手だ。だから、そういう時は、ニコっと笑って相手の顔を見る。
すると、相手は目を背けてくれる。
私はこれを、笑顔の護衛術とよんでいる。
◇
私は臆病だ。だから笑う。
自分はあなたに友好的です。自分はあなたに好意的な感情を持っています。
それを精一杯伝えるために、笑顔という道具を使う。
だれも傷つく人はいない。何も悪いことをしているわけじゃない。
皆もどうせ同じことをしているんでしょう?
でも、時々思う。こんな笑顔でいいんだろうか。
◇
昔、人が笑う意味って何だろうって考えたことがある。
自分が楽しいから、自分が幸せだから、自然と生まれてくる笑みは尊い。
けれど、成長するにつれ、大人になるにつれて、私は時々、自然な笑顔を忘れてしまう。
周りの人全員が笑っているとき。
どうしてみんなは笑っているんだろう。
どうして今私は笑っているんだろう。
友達が、誰かの悪口を言っていたとき。
なぜあなたはこれを嬉々としていえるんだろう。
なぜ私はこれを笑えるんだろう。
そんな風にして、ぎこちなくしか笑えなくなっていた時。
一人の女の子が、ばいばい!と帰り際に、はじけるような笑顔で挨拶してくれた。
太陽みたいだ。
その笑顔をみて、僕の陰鬱な気持ちは霧散した。
笑顔は本来このようにあるべきである。
笑顔を見せて、見た人も笑顔になる。
それがどんどん広がっていって、
世界が平和になるような。そんな力が笑顔にはあるはずだ。
あぁ、こんな笑顔を見せられる人になりたいな。
◇
「おはよう!」
今日も私は笑顔で挨拶をする。けれど、それは打算的な笑顔じゃなくて、
私が世界を明るくするんだ!という、無謀で。でも、希望に満ちた笑顔。
だから私は今日も笑う 文月結 @yui_fuzuki
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