512号室―??

「―――っ!?」

なにか違和感を感じ、飛び起きる。……飛び起きる?俺はさっきまで廊下に―――何のことだ?

「おはよう、随分混乱してるね」

「!……お前は誰だ?」

声をかけられるまで気づかなかったが、顔をわずかに動かすと、俺の喉に包丁を突きつける細身の男が見えた。

「さあね。そんなことより、どうだった?」

「……何が」

「夢、見てたんだろう?どうだった?」

男の手元には見せつけるように薬の瓶らしき物が揺れている。もしやこれのせいか、あんなヤツらの夢を見たのは。

「最悪の気分だった」

「そう?鍵探すの、楽しくなかったかい?」

「全く。……俺を殺すんじゃないのか?」

包丁を突きつけたまま、ニコニコと話す男に疑問をぶつける。

「殺すよ?けど、すぐに殺しちゃったらデータが取れないから」

「……」

データ?

「この薬のデータ。これ、人を殺した分だけそいつを夢に閉じ込められるんだ。面白くない?」

「……つまり、この俺が、殺人鬼ってことか?」

「あれ、違うの?中学の同級生、高校の親友、バイトの先輩。他にもご近所さんをまあまあ殺してたよね?」

「……は」

何を言ってるんだ、こいつは。他のヤツらは知らないが、澤田とはこないだ―――

「あ、あと廊下にいたお母さんもかな?」

「……母さん?」

「うん。廊下に血まみれで倒れてたよ?酷いよねえ、君。心配してくれる親まで殺しちゃうなんて」

……。

「……ぃ」

「?」

「……るさいうるさい!お前は何なんだ!さっきから聞いてれば……俺が、殺人鬼?趣味悪りぃデタラメ言うんじゃねえよ!!」

「じゃあこれなーんだ」

目の前に紙袋を差し出される。はたき落とすと、中身が散らばった。紐のついた鍵、角の潰れた分厚い漫画、四角く赤い椅子の脚。全部、俺が捨てた物だ。

「ちなみにこの包丁も君のだよ」

よく見れば、今にも滴りそうな赤い刀身。

「……どこでこれを」

「あ、落ち着いた?紙袋の中身は全部、お隣さんが持ってきたやつね。何で持ってたのかは知らないよ」

気味が悪いくらいニコニコと話す男は、さらに包丁を近づける。

「ねえ。夢で君を追いかけてきたの、誰だった?」

……どうせ俺はもう助からないだろう。しかし、黙りこくっていてもずっとこの状態かもしれない。

もし追いかけてきたヤツが、さっき廊下にいたのと同じヤツだったなら。

「……俺だった」

「そっか」

ザクッ

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