マンションにて

和鞠

302号室―西野

嗅ぎなれない他人の家の臭いがする。そう思い目を開けると、目の前には物が散らかった机、脚が1本無くなった椅子、開きっぱなしの引き出し。更には床に薄らと染みが見える。

「……なんだこれ」

誰かの部屋らしいが、俺の部屋でないことは確かだ。俺の部屋はもっと古い。そんなことより―――

ギシッ

人の気配がする。見つかったらまずいのではなかろうか。

慌てて周囲を見渡すと、玄関のドアが目に入る。さっさと出ようとドアノブに手をかけるが、開かない。

「……は?」

よく見ると、ドアがおかしい。鍵を挿す部分がこちら側にあるのだ。普通は屋外に面している側だろうに。それに表札もドアの横にあるではないか。訳が分からない。

鍵を探せということか?どこかの引き出しに入っていればいいが……。

いくつか見て最後に覗き込んだ引き出しに、サッカーボールのキーホルダーが付いた鍵が入っている。見覚えがあると思ったら、俺と同じキーホルダーだった。

チラッと目に入った写真立てには、中学の同級生が写っていた。

ああ、コイツの家だったのか。よく虐められていたので覚えている。思い出すとイラついてきたので、乱暴に鍵を挿す。

ガチャ

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