4話
広場の奥まで歩いていると、その先は川がどこまでも続いていた。川へと近づく階段を降りようとすると、すでに誰かが座っていた。
真っ白なシャツに少しよれた黒のジャケットを羽織ったシンプルな装いの青年が、気だるげに煙草の煙と戯れていた。
長めの黒髪が風に揺れて、目元がよく見えなかったけれど、その横顔は無機質な彫刻のようで美しかった。
あまりにも静かで、そこだけ空気が止まっているようだったそんな彼に、私は目を奪われてた。
それと同時に、さっきまで私の頭の中にかかっていたもやがさっと消えて自意識が露わになる。
(……綺麗)
胸の奥が、チクリと痛む。どうしてか分からない。
でも、それだけで十分だった。
綺麗なものを見ると死にたくなる。
心を奪われるのはいつも私だけで、綺麗なものは私のものにはならないから。
パサついた髪、丸い鼻、低い声。拭えない劣等感。
私は、私が大嫌いだった。
急いで足を向け、何も見なかったふりをして通り過ぎた。彼がこちらに気づいた気配はなかった。そのことに少しほっとして、ほんの少しだけ傷ついた。
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