第4話 連れ出してくれたのは

 闘病中、上辺だけの縁はすべて切れて、友達として残ってくれたのは彼女だけだった。

 彼女とは、頻繁に連絡を取ることはなかったが、それでもたった一人存在してくれた友達だった。

 いつも連絡するのは私からだった。


「もう限界です。」


「付き合うよ。」


 治療薬である程度、症状を制御できるようになった頃、そう言って、小さくて狭いこの地獄から連れ出してくれたのは彼女だった。

 ずっと私は四国に住んでいて、彼女は愛知に住んでいた。

お互いが住む、真ん中あたりの京都で会う約束をした。

 私には五年ぶりの外の世界だった。あれだけ逃げ出したいと願っていたのに、人に会うのも外に出るのも怖かった。

過去に一人、取り残されてしまっている気がして、家から出るのが怖かった。外出中、痛みが出るかもしれない恐怖もあった。まともに歩けなくなったことで、彼女に迷惑をかけるのが怖かった。その心の葛藤を彼女に悟られたくなかった。

 でも、彼女はただ何を聞くでもなく、私の行きたい神社に数社ほど付き合ってくれた。

 神社仏閣はただ漠然と子供の頃から好きだったが、きちんと興味を持って参拝するようになったのも出会った頃の彼女の影響だった。それまではお寺と神社の違いも明確に分からないほど無知だった。ちょうどその頃、御朱印集めが世間に知れ渡ってきたこともあって彼女とよくいろんなところへ出掛けたし、四国ということもあって互いにお遍路も回った。

 私と会わなくなってからは、何故か彼女自信も神社仏閣に行くことが減ったらしい。それでも私よりたくさんの神社仏閣を参拝していて本当に羨ましかった。

 八坂神社でご祈祷に付き添ってもらって、今宮神社で焼き餅を食べて、晴明神社で清め砂を買った。

 五年間、どれだけ家から出たいと願っても叶わなかったことがこの一日で、たった数時間で、彼女のおかげで叶った。


それから少しずつ、私の人生が変わっていった。


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