第2幕 繰り返される喜劇の果てに
王都を離れる馬車の中、レオノーラ・ヴァレンティナ・エーデルレーヴェは、窓の外を無言で眺めていた。
手足は冷えきり、唇はかすかに震えている。
(これで、何度目かしら)
淡く笑った。誰にも見せない、誰にも知られない微笑みだった。
庶民の少女フィオナが選ばれ、王太子クラウスは婚約破棄を宣言する。
学園の貴公子たちが、判を押したように断罪の言葉を並べる。
階段、教科書、破れた鞄――記憶の中で何度も見た光景。
彼らの視線も、声の調子も、群衆の歓声すらも、少しの違いもなく繰り返されていた。
(演劇のような、悪夢のような……)
辿り着いたのは、かつての離宮――今は打ち捨てられた屋敷だった。
家具は朽ち、屋根は雨漏りし、暖炉に火はない。
古びた部屋にひとり腰掛け、レオノーラは蝋燭に火を灯した。
「また、最初から……ですのね」
自分がいつから“この地獄”に囚われているのか、もうわからない。
けれど確かに、何度も繰り返している。
フィオナに勝とうとしても。
王太子に真実を訴えても。
仲間を得ようと手を伸ばしても。
結末は常に同じだった。
自分は断罪され、世界は滅び――やり直しが始まる。
(もう……疲れたわ)
蝋燭の炎にかざした指が、ゆっくりと震えた。
孤独と絶望はとうに慣れた。けれど、心の奥底に残るただひとつの願いが、彼女を立たせる。
「――早く、この繰り返しを終わらせなければ……」
無限に続くような地獄から、抜け出さなければならない。
もうじき、また世界は逆行する――その前に。
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