悪役令嬢は何度でも断罪される 〜君にさよならを告げるたび、君の存在は削られる〜

白沢 果

第1幕 断罪の幕は上がる

「レオノーラ・ヴァレンティナ・エーデルレーヴェ――君に、婚約破棄を宣言する」


 卒業パーティーの華やかな音楽が止み、静寂が支配する中で、王太子クラウス・フォン・リューベルトの声だけが響き渡った。


 王子の隣には、緊張した面持ちの少女――フィオナ・エルメロワが寄り添っている。

 平民出身でありながら、類まれなる才能と心優しさで多くの生徒から慕われる“天使”だ。


 貴族の若者たちはどよめき、観衆は興奮に包まれる。


 だが、名門公爵家の令嬢レオノーラ・ヴァレンティナ・エーデルレーヴェは、表情ひとつ変えずに王太子を見据えた。


「……理由を、お聞かせいただけますか?」


「君が、フィオナ嬢に行ってきた悪行の数々――もはや見過ごせぬ。

 教科書を破り、私物を捨て、階段から突き落とす。証人もいる」


「それは……間違いです。わたくしは――」


 レオノーラの言葉は、重ねる声でかき消された。


「私は見たんだ」


 冷静沈着な宰相候補、ノア・エーヴェルスが前に出る。


「彼女が階段の上で、フィオナ嬢を押すのを」


「俺も見たぜ。最初は事故かと思ったけど、手の動きが不自然だった」


 ミハイル・セイランは騎士の勘で語る。


「まったく、貴族の誇りも何もないねぇ。可愛い顔してるのに、もったいない」


 最後に軽薄な貴族、ジュリオ・カリストは皮肉混じりに笑うと、観衆はついに歓声を上げた。


「やっぱりあの子、フィオナちゃんに嫉妬してたんだよ」


「庶民に嫉妬するなんて、貴族失格だわ」


「王子様、よく言った!」


 ざわめき、囁き、嘲笑と拍手の嵐。


 レオノーラは一度も言い訳せず、静かに頭を垂れた。


(また、これね)


 その瞳の奥にあるのは、悲しみか諦めか――誰も気づく者はいなかった。

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