「じゃあ、とっとと悪人成敗と行きましょうか!」




 突き付けられた、友人からの裏切り。

 うつむいて肩を震わせる修介。空気を読めない者は、この場には誰ひとりいなかった。

 あえてそっとすることにした。

 文香がひとり、部屋を出て行った。

 別の部屋で、自分のパソコン内部から協力者である源一郎に連絡を取る。

 宵崎の友人の協力は取り付けられそうだ。自分達の正体も受け入れてくれた――そう報告した。


『……そうか。それでは、何時頃にその店に君達が潜入できるか、その段取りをつけてくれるか?』


「わかったわ」


 秘密の会員制。その闇スロに客として入り込むには、まず修介の紹介という形が必要だろう。

 蜂谷は、自身の借金のために修介を売った。その流れを再現するのだ。



「まずは、宵崎さんが表向きのゲームセンターに行かないとですね」


 どうにか立ち直った修介が、口を開く。そう簡単に割り切れはしないだろう。だが、それは彼自身が乗り切るしかないのだから。


「面倒だな、仕方あるまい」


「紹介客が見つかったら、まずは連絡しろと言われてます。今から、電話しますね」


 修介はスマートフォンを手に取った。

 今度の相手は、かつての友人とは違いすぐに出た。


「……あ、阿野木さんですか? 修介です。俺の友人で、そちらの店に興味ある奴がいまして――」


 修介が、例の高利貸しと会話する。

 文香はにやりと笑った。こうやって相手をはめるのは、ハッキリ言って小気味いい。もちろん悪人に限る。


「と、言うよりも……ええ、闇スロだって勘付かれてます。すいません、以前儲かった時に大判振る舞いした時に、俺がボロ出しちゃったみたいで……」


 そのあとも、やりとりは続いた。

 通話を終えると――修介はしてやったりと歯を見せた。なかなかに機転が利いたようだ。


「友人は、闇スロそのものに興味があるって言っておきました。もちろん秘匿性も承知の上だと――なので、今回は特例で俺同伴だったら、いきなり案内してくれるそうですよ?」


 向こうは、少しでも早く犠牲者を釣りたいのだろう。その焦りが、文香達にとってはありがたかった。


「ようし」


 文香が拳を握る。


「じゃあ、とっとと悪人成敗と行きましょうか!」



        ◇



 そして、当日。

 大所帯でも意味はないと、作戦決行にあたって――

 文香、宵崎、修介の三人が動くこととなった。言織、景、ロクスケは念のため、近場で待機。もっとも、出番はないだろう。今回の相手は、妖怪ではない。普通の人間なのだから。

 基本的に留守番役の多い文香は、かなり張り切っていた。


「こちらが宵崎さんです、よろしくお願いします」


 旧スロットの区画で、店員に宵崎を紹介する修介。店員は用意していたカードキーを、宵崎に恭しく両手で手渡してきた。こちらの企みなど、知る由もなく。


『スロット台に、わたしを触れさせてね』


 文香とはそういう手はずになっていた。彼女は今、本体のノートパソコンから離れて、宵崎のスマートフォンの中に潜んでいる。ちなみに今の宵崎は普段の和服姿ではない。茶系のベストに、ベージュ色の大きめの帽子をかぶっていた。

 文香が台に入り込み、内部プログラムを調査してくる。

 終わり次第、宵崎のスマホに連絡を入れる。


 それが、作戦決行の合図だ。


 修介と宵崎は並んで座る。

 スロット台は、『サムライブレード閃』

 修介をこの店に浸からせた、張本人である。



「……あ、ちょっと?」


 お金を入れて打とうとしたところ、黒服の店員に呼び止められる宵崎。たった今、文香の宿るスマートフォンを筐体に触れさせた行為が、目に止まったようだ。


「何ですかな?」


 余裕で対応する。そのとなりで、修介は少し不安だ。


「今――何か、不審な行為が。申し訳ありませんが、そのスマートフォン確認させていただけますか?」


「……いや、それは」


 渋る宵崎に、店員は疑念の視線を強くした。


「いえ、疑うわけではないんですがね。スロット台に、何らかの電波を流すような――まあ、いわゆるゴト行為ですか? 警戒してましてね」


 いや、思い切り疑っている。

 ちなみにゴトとは、パチスロにおける違反行為。不正な方法で、台を誤作動させて不当にメダルを払い出させることである。もちろん、法律にも触れる犯罪行為だ。


「はあ」


 自分達こそ犯罪行為をしているだろうに――宵崎は失笑するのを隠して、スマートフォンを手渡した。


「はは、好きモノですね」


 画面を見て、店員は笑った。


 ただのスマートフォン。普通の人間には、そう見えるだろう。実際は妖力で動く特別性だが、この際は関係ない。あくまでスマートフォンであるなら、店員は納得するのだ。

 おとなしく返されて、受け取る宵崎。店員の『好きモノ』発言に怪訝そうな表情になった修介に、画面を見せた。

 納得。

 待ち受け画面には、やたら煽情的なメイド姿の少女の画像――ちなみにノリノリの文香である――が表示されていた。


 つまりは、先ほどの宵崎が見せるのを渋った理由を、店員はこの恥ずかしい画像が原因と納得した。初歩的な心理操作である。わざわざ必要もなかったが――まあ、文香の悪ふざけである。年甲斐もなく色気に興味を持つ老人と誤解された宵崎は――いや、特に気に留めていないようだ。


 さてさて。

 ふたりは打ち始める。

 スロット台の液晶画面が動き、リール目にベル模様がそろったり――他の客も、まだ静かに打ち続けていた。いや、台自体の音量で充分に騒がしかったのだが。


「…………」


 宵崎の胸ポケットに入れたスマートフォンが振動した。文香からの合図だ。送信されてきたメッセージを確認する。


『ビンゴ! 奥の部屋で、スロット台を管理しているプログラム入りのパソコンを発見』


『これから数回転で、まずは偶数台を大当たりさせる。次に、奇数台を大当たりさせる。最後に、38番台を緊急停止させるわね』



 これだけの不自然な挙動が続けば――店側も不正を隠しきれまい。

 さあ、面白くなってきた。

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