第2話 靴紐少女

『なな子ちゃん、今日一緒に帰ろうよ!』

ごく稀に一緒に帰るだけのともだち、という存在がいた。背が高くてモデルみたいなスタイルの未央ちゃん(仮名)である。

二宮金次郎像を横目に正門を出て右に曲がった。算数の授業がいやだったよね、という話をしていたところで未央ちゃんの声が遠退く。

振り向くと、未央ちゃんは右の靴紐を直していた。そうして立ち上がるかと思うだろう、はて次はなにごともないような左の靴紐を解き結び直す。

私はそれを長い時間見ていたような気がした。気に食わないのだろうか、再び右の靴紐に手をかけたところで未央ちゃんは口を開いた。

『なな子ちゃん、靴紐解けちゃったから先に帰っててくれる?』

ときに小学生というのは突拍子もないことを言うことを、幼心にも薄々わかってはいたのだろうが。次の角を右に曲がったら、未央ちゃんが見えなくなる。曲がり角までわずか数メートルだったが、なぜか私はゆっくり歩いた。未央ちゃんはまだ靴紐を結び直しているのだろうか。本当に私と一緒に帰りたかったのだろうかそれなら何故、そうこうしているうちに曲がり角に差し掛かる。私は横目ですら未央ちゃんを見ることはしなかった。

そうだ、私と急に帰りたくなくなったんだ。靴紐を直すお芝居うまかったななどと思い倦ねた。気付くと足は何か重いものに解き放たれたかのように家路に向かって全速力で走っていた。

まだ疲れ知らずの小学生の私、玄関でバリバリっと音を立てて靴を脱いだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わたしの記憶 藤なな子 @chirol1991

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る