大人になれない

ラベンダーの花畑

大人になれない

異世界に転生した。これで何回目かは忘れてしまった。1回目かもしれない。少なくとも脳に記憶が付随しているわけではなさそうだということが分かった。


まず最初の頃はどうだったのか、一番ましに覚えている。確か人間だった。成人の前に亡くなってしまった。事故だったように思う。何度も繰り返したせいでかなりあやふやだ。


2回目も3回目もイマイチ覚えていない。けれどかなり印象に残っているのは虫の幼虫だったときだ。自分の姿は見えないから分からない。なんなら視力もそこまで発達すらしていないから見えもしない。そもそも土の中だから暗い。


まだまだ、成虫まで程遠かった。その辺のガキに掘り起こされた後放置されて死んだ。生物ピラミッドとはこういうことかと思った。


恨んだりはしない。生きるということはこういう事でもある。けれど正直来世であのガキはセミにでもなればいいと思う。


そしてとうとう異世界だ。この世界では大人になれるだろうか。いつも、本当に小さい頃の記憶はなくなっている。物心がつく頃に今までの記憶も断片的に思い出される。


だんだん、記憶があやふやになってきても、大人になる前に死んだということだけははっきりと覚えている。そのうち段々、大人になるということが、精神的に大人になるとかそういう事でなく、年齢そのままで自分に神秘的に思われてくるようになった。


今回は、今は6歳くらい。字は教わった。本を沢山読んだ。聞いている話だと戦争があるらしかった。魔法もあるらしかった。剣技を習った。


本を読めて、剣を習えて、そのうち魔法を教えてもらえることで、自分がそれなりに裕福な位置にいることだけはなんとなくわかった。食べ物も満足に与えられた。そうじゃない人達をたくさん見られる位置でもあった。


飢饉もあった。物乞いに遭ったこともあった。戦争は終わっていなかった。本を読んで、剣を習って、魔法を習っていた。繰り返しそうした。毎日食べ物を食べた。毎日ベットで眠った。


15の時、戦況が悪化していた。戦争はまだ終わっていなかった。連れ出されることになった。自分の命はあまり望めなかった。


いろんなことがあった。今まで何度も転生を繰り返したもののやはり天才にはなれなかった。そうなれればもしかしたら戦争に連れ出されない可能性もあった。これからも、戦況に別の方向から役に立つために。


愛国心は特になかった。この国の神にも興味は大して持てなかった。周りの雰囲気にもなじめなかった。それよりも大人になりたかった。


戦場に行った。初動の攻撃でうまく動けず攻撃を食らった。


神のような、髭のある神々しい爺さんが目の前にいた。もうこれからは転生しないと言われた。次に死んだらどうなるのか聞いたような気がする。それは教えられないと言われた。


運良く生きていた。足が片方吹っ飛んでいた。しばらく目を覚まさなかったと言われた。その後国に帰った。死んだほうがよかったとも言われた。自分は生きていてよかったと思った。精神的に子供だと思った。


もう戦えなくなった。辛いこともあったものの生きることができた。20になった。精神的にはまだまだ子供のままだった。

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