異能者な旦那様の最愛は「式神」!? 〜仮初妻から始まる不遇令嬢の溺愛生活〜
桜香えるる
プロローグ
「お母さま。この場が宮中の宴に仮託した私のお見合いの席だとは、十分すぎるほど十分に察しているつもりです。それでもあえて申し上げさせていただきますが、私は
私が母におずおずとそう申し出たのは、
「あらあら、どうして? 伊織くんのこと、そんなに気に入らなかったのかしら?」
こてりと首を傾げた私の母・
「いいえ!」
対する私はぶんぶんと首を横に振り、はっきりとした口調で「違うんです、そうではなくて!」と呟いた。
「むしろ、好きです。伊織さまのことはとっても気に入りました」
「じゃあ、どうして?」
「……したくって」
「うん? なあに?」
「好きだから! 好きだからこそ私は絶対に、伊織さまと恋愛結婚がしたいと思っているのです!」
思い切って叫んでから、一秒、二秒、三秒。
永遠にも思われた静寂は、母のふっと吐き出した笑い声によって不意に破られたのだった。
「ふ、ふふっ! そう、そうなのね……!」
「伊織さまのことは、私が必ず落としてご覧に入れます! 婚姻自体はお母さまが思っておられる通りにきちんと結んでみせますから! だから、だからっ、どうか今だけは……っ!」
焦って言葉を重ねる私の頭を、母は優しく撫で擦ってくれた。
そして、私を安心させるように、穏やかな笑みを浮かべて言ってくれたのだ。
「良いわよ、
「ほ、本当?」
「ええ。その代わり、そこまで言ったからには自分の言葉に責任を持つのよ? きちんと伊織くんを落としてご覧なさいな。
「はい!」
……大好きなお母さま。嘘をついてしまって、ごめんなさい。
みんなに迷惑をかけないためには、今はこうするしかないと思うのです。
それでもきっと、苦しいのは今だけ。
時が来れば、全てうまくいくはずですから。
いいえ、他力本願ではなくきっと私自身の力でそうしてみせますから、今は少しだけ待っていただけるとありがたいのです……。
荒れ狂う内心を押し殺し、元気よく返事をしたときの私は、自分の未来は自分自身の力でいかようにでも切り拓けるようになるはずであると、子供らしい無邪気さで本心から信じきっていたのだ。
だから自らの胸の中にある明るい未来への展望が蜃気楼のように儚いものであるということを、愚かにもこのときの私はまだ、欠片も知る由もなかった。
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