第三章 ノイズの影
「ねえ、ここどこ?」
「私たち住宅の方から来たよね?」
「あれを見て」
拓斗がビルの近くを指さしていた。
そこには黒い人影があった。
「やったよ。人がいるよ」
「でも、おかしくない?」
拓斗が疑問を浮かべた。
「さっきまで歩いてきただろ。誰にも会わなかったのに、急にここで会うのはおかしくない?」
「あの人おかしいよ!」
と大きな声で美咲はみんなに伝えた。
「あの人…顔がノイズにかかっているよ」
「確かに、どおりで変だと思った。」
「ちょっと待て、話を進めないでくれ。拓斗、どこに人がいるんだ?」
「私もそう思う」
「だったら、何に見えるの?」
「どう見ても、誰もいないけど…。」
「ぼくたちだけにしかみえないのか?」
「そんな…」
「ねえ、あの人なんかこっちに近づいてきてないか」
「早く逃げよう」
和樹は明菜の腕をつかんで一軒家に駆け込んだ。
「とりあえず、逃げれたね。」
「情報を整理しないか?」
拓斗が言った言葉に美咲はうなずいた。
「確かに、それがいいかも」
「まず、月を観察するために山の頂上にやってきて…」
「そしたら、急に赤い霧に包まれて、ここに来たよね」
美咲が言ったら明菜が続けて説明し始めた。
「そして、美咲が都市伝説の事を教えてくれた…。ここまではみんなわかるな」
「ああ、そこまではわかった。だが問題はここからだ」
「明菜と和樹にノイズが見えないことだな」
美咲はうなずいた。
「それにしてもここは、どこ?」
空気はまだ湿った霧のにおいを含んでいて、肌にじっとりまとわりついた。
どこかで鉄がこすれるような音がかすかにしていて、落ち着かない気持ちにさせた。
「とりあえず、みんなは何を持ってきたの?使えそうなものを探してみるから」
と、拓斗が説明すると、みんなは、リュックの中身を出した。
「私は、懐中電灯と時計、みんなで食べるお菓子ぐらいかな」
「僕は、パソコンと望遠鏡ぐらい」
「拓斗、パソコンを持ってきたのか?」
和樹がパソコンを持ち上げて聞く
「星を観察して記録できるように…」
と、恥ずかしそうに言った。
明菜はレジャーシート、和樹はマッチとロウソクだった。
「和樹って、意外と原始的だね」
「いいじゃん」
「私は懐中電灯派だけどね。」
そう言って明菜は懐中電灯を手に取った。
「でも、どうしてあの人達が二人には見えないの?」
とその時、
ドン…ドン!
窓をたたく音がした。
「何今の音?」
「誰かが窓にあたったんだろ?」
「でも近くに窓はないよ」
「じゃあ、誰が鳴らしたの…」
「探検してみようか」
と和樹が立ちあがった。
みんなも和樹の後についていった。
和樹がドアを開けると床が土だらけの部屋があった。
「ここからなった思ったけど、何もないな」
「よかった。気のせいだったみたいだね」
美咲が安心すると明菜が急に表情が変わった。それはまるで恐怖を見ているようだった。
「後ろに…」
「後ろに何があるの?」
みんな振り返ると懐中電灯に照らされたカーテンがカーテンの影に何か写っていた。
「何あの影、手…?」
和樹が言ったとたん影は
とんとんとん…!
と大きな音を立て窓をたたいてきた。
その音は壁全体を震わせ、足元まで響いてくる。まるで家自体が何かに取り囲まれているようだった。
「ここから早く逃げないと!」
「どうして?」
と美咲が首を傾げた。
「次は、美咲ちゃんがおかしくなっちゃったの?」
「人がそこにいるんだよ。急いで逃げないと」
「えっ!でもどうやって逃げればいいの…」
「あそこから逃げられそうじゃない?」
と拓斗が言った。
指さした場所は小さな出窓だった。
「あそこからしゃがんで出れると思う」
「いいかもしれないね」
「リュックをまとめて急いで出よう!」
「準備は大丈夫?」
みんながうなずき出窓に向かった。
美咲は出窓を出るとき一枚の紙を見つけた。
それを拾うと
「美咲、早く出るぞ!」
と和樹に言われ、紙を握ったままその場を離れた。
みんなが家から離れた瞬間、家は崩れ始めた。
「危なかったね。」
「よく影があることに気づいたな。今頃がれきの下敷きになっていたよ」
「それで、次は美咲が見えないのか?」
と和樹が言った。
「美咲ちゃん、これ私が持っていたのだけど…」
と明菜が懐中電灯を差し出した。
「美咲、何を持っているんだ?」
和樹に言われ手で握っている紙をみんなに見せた。
「さっき逃げている時に落ちていたから拾ったの。なんか気になっちゃって。」
「中は何て書いているの?」
「えっと…『やつらは、どこにでももいる。どこまでも追いかけて来る』」
「やつらって何?」
「それがノイズかもしれない。多分ここら辺にいると思う」
と指さした。確かにノイズがかかっている生物だった。
「とりあえず、ここから離れたほうがいい」
「確かに。そういえば、近くに神社があるけど」
「どうして、そんなことを知っているの?」
「さっき人が見えた時に奥に鳥居がみえたんだよ」
「そうなんだ」
「よし、そこに避難しようか」
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