赤い月
ひなた
第一章 夏休みと赤い月
ジジジジジジジジジ…・
外ではうるさいほどセミの鳴き声がする。
ベッドから起きた中学一年生鈴奈美咲は、パジャマから私服に着替えた。
部屋の窓から差し込む朝の光は強烈で、じっとりとしたっ空気が肌にまとわりつき、美咲は額の汗を手の甲でぬぐった。
壁の時計は七時を少し回っていて、秒針の音がやけに大きく響いていた。
一階に降りると母親は、フライパンで目玉焼きを焼いていた。
ニュースでは天気予報が流れていた。
「今日一日晴れになるでしょう…」
女性のニュースキャスターが言っている。
美咲は、
「今日から夏休みか~」
とニュースを見ながら言った。
「遊びすぎたら宿題が大変になるから、早めに取り組みなさいよ。」
母は手早く朝食をつくって言った。
「は~い」
どこか間延びした声を出しながら、返事をし朝食を食べる。
今日のメニューは、目玉焼き、ごはん、みそ汁
湯気の立つ味噌汁をすすると、だしのいい香りがする。黄身がとろりと広がる目玉焼きにしょうゆを垂らすと、しょっぱい香りがふわっとして、食欲をそそった。
外からは蝉の声が窓ガラスを震わせるように響いていた。
(夏休みが始まったんだ)と実感させられる。
「そして今日は二百六十五年に一度みられる赤い月、スーパーブルーブラットムーンが見られるでしょう」
ニュースが流れていた。
美咲はそのニュースを見て
「お母さん、ムーンは、月でしょ?ブラッドって何?」
「ブラッドは英語で血を表していているのよ。赤い月ってことかしらね?」
「血か~、後で本を読んでおこうっと」
と言いながら自分の部屋に戻っていった。
美咲は自分の部屋に入ると、小さい本棚の前に立った。そして、迷いなくその本を手に取った。【都市伝説】表紙は少し色あせていて、角はすり切れていた。
長く読み込まれてきたその本を、美咲は妙な信頼感を抱いていた。
「今日はどんな恐い話かな」
とページをめくりながら言った。
美咲は都市伝説や怖い話などが好きだった。
「えっと、『赤い月の日、閉ざされた扉が開く。』って今日の月の事じゃん!」
と驚きながら読んだ。
「その日の夜に扉は開かれる」
その文字を見た瞬間、背中に小さな冷たいものが走った。
ページの隅にはなぜか赤いペンで線を引いた跡があり、まるで警告のように見えた。
美咲は、読み続けて
「まあ、都市伝説って噂話だし…いっか」
と本を棚にしまい、気分転換に散歩に出ることにした。
母が
「今日一日の宿題終わったの?」
と聞かれたが、
「後でやる」
と言いながら靴にはきかえて外に出た。
玄関を開けると、むわっとした熱気とともに強い光が飛び込んできた。きれいな緑色の木が美しく輝いている。アスファルトの向こうで蜃気楼のように揺れる空気を見ながら、なんだか今日は、いつもと違う夏休みの始まりになる気がする
と心の中でつぶやいた。
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