魔法と科学

松ノ枝

魔法と科学

 魔法のありふれる世界で僕は幼馴染と街を歩く。

 「世界は何で出来てると思う?」

 彼女の問いに僕は悩む。日頃から考えたことのない問題に頭を巡らせる。

 「本で読んだくらいだけど原子とか分子かな?」

 「そう、あなたはそういう考えなのね」

 彼女の言いたいことがいまいち分からず、疑問符が浮かぶ。

 「どうしたの?急に」

 いつも変な事を言う子だが、こんなことを聞いてきたのは初めてだった。いつもなら他人に意見など聞かない。

 「魔法ってあるじゃない?あれは何なのか気になってきたのよ」

 「?」

 魔法が何か、そんなもの学校で習うじゃないかと彼女の物憂げな顔を見て思う。

 「学校で習うじゃないか、魔法は魔力で行使する手法のことでしょ」

 子どもでも知ってる常識、知識的に知るのは学校に入ってからだが、感覚では入る前の子でさえ知っている。

 「そういうのは知ってるのよ、そうじゃなくてより起源的な話よ」

 「魔法の起源?それは…分かんないけど」

 魔法について習ったことはあるが行使方法や歴史、理論についてがほとんどだ。起源の話となると神話や伝説、哲学の領域じゃなかろうか。

 「神話とかに載ってるんじゃない?創った誰かの事とか」

 「それも起源のことだけど私が言ってるのは魔法の力、魔力とは何から現出せしめているのかという事よ」

 彼女と横並びに街中を歩く。街の至る所では魔法を使い生活を営むもの、商業を営むものなど魔法という技術の定着が見られる。

 「こうしてみると魔法は世の中の基本技術になってるのね。本で読んだのだけれど昔は魔法ではなく科学が基本技術だったらしいわ」

 「そうなんだ。科学が基本か、科学ってあんまり見ないけどね」 

 科学の技術は魔法より不便で、今ではあまり目立たない技術である。かつてはリニアモーターとかいうものが国中を通ったらしいが、今では放置された線路だけがある。

 「魔法は科学より後に発展したの。さて魔法はどうやって科学を越えたのかしらね」

 「単純に技術的な利便性が上だったんじゃないの?」

 「そうかもね、でも私としては違うと思うの」

 彼女の目が少し輝いて見える。こうした目になるのは初めてじゃない。こうなるのは彼女が楽しんでいる時だ。

 「私はね、魔法が科学を越えたんじゃなくて、越えるべく創られた技術だと思うの」

 科学を越えたのではなく、越えることを目的に作られたんじゃないかと言う。

 「それって結局魔法が科学を越えてるんだよね。どっちでも同じじゃない?」

 「結果ではね、でも自然と越えたのと故意に越えたのじゃ少し違うわ」

 彼女はそういうが大して変わらない気がすると僕は思った。

 「あなたに世界は何で出来てるか聞いたわね。あなたは原子だと言った」

 「うん、君は違うの?」

 「私はね、世界は思考で出来てると思うの、いや、思考と物質の相互関係で出来てると思う」

 「世界はまず科学でその在り方を理論として確かにしたわ。でも理論だけじゃダメなことがあった。そこで魔法が生まれたの」

 「魔法は科学の理論外のことも出来るもんね」

 「科学は物質での世界を記述し、魔法は思考での世界を記述した」

 「魔法は思考と関わりがあるの」

 魔法には確かにイメージが大切だ。出来ることを想像できない限り行使など出来ない。

 「魔法は科学での限界を感じた者たちが用いた、科学なの」

 「魔法と科学は別物でしょ?」

 「ほんとにそうかしら。科学での限界から逃げるため、魔法という物理法則を脱した科学を開発したのよ」

 「魔法は思考を具現化する科学、例に挙げるなら錬金術、あれなんかは魔法の要素と科学の要素を持つわ。あれ、二つの技術じゃなくて科学という一つの技術なの。ただ物質と思考、科学で取り扱う分野が科学内で二分しただけで」

 錬金術、金を錬成しようとする部分で科学的な理論と魔法的技術の合わせ技を用いている。昔は科学一本の錬金術だが魔法を用いてもいいだろうとなったらしい。

 「魔法は思考を具現化する技術、魔力は人や物、この世の全てがもつ無意識かしら。思考する際には意識が必要、意識は魔法を行使しようとする意志、魔力はその原動力。魔法はそういうものなのよ」

 「世界は思考と物質、魔法と科学から成る。面白いけどほんとにそうなのかなって感じではあるね」

 彼女は僕の言葉に少しムッとした。

 「信じないならそれでもいいわ、でも多分これが真実よ。魔法なんて物理法則を越えただけの科学なの」

 「魔力だのなんだのは結局科学からの産物、今もこうしてみんなが魔法を使うけど誰もが科学を使っているの。魔法は不思議じゃないわ、現実よ」

 彼女の話はどこか訳の分からない作り話めいていたが、魔法が現実だといわれるとファンタジーもまた科学なのだなと思った。

 僕は科学のありふれる世界で今日も幼馴染と街を歩く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法と科学 松ノ枝 @yugatyusiark

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ