昨夜、僕の部屋の天井から聞こえてきた「カリカリ」という音の正体を確かめようとしたら、今もまだドアの外で続いているのですが、助けを呼ぶべきか、それとも知らないふりをするべきか迷っている僕の話

チョコしぐれ

昨夜、僕の部屋の天井から聞こえてきた「カリカリ」という音の正体を確かめようとしたら、今もまだドアの外で続いているのですが、助けを呼ぶべきか、それとも知らないふりをするべきか迷っている僕の話

これが、今の僕の状況を一言で表すタイトルだ。

 いや、正確には「一言」なんて簡単なものじゃなく、ずらずらと長ったらしい説明になっている。けれど、それくらい説明しなければ、この恐怖は伝わらないと思う。


 昨夜――天井から音がした。

 カリカリ、カリカリ。小さな音。だが確かに僕を狙っているような規則性があった。

 それを確かめようとしたのが間違いだった。


 天井を見上げ、懐中電灯を照らしたときには何もなかった。

 けれど音はやがてドアの外に移った。

 そこから一晩中、今に至るまで続いている。


 最初は無視できる気がした。小さなネズミか、古いアパートの軋みか、と。

 でも耳を澄ませば、カリカリのリズムは部屋の形状に沿って変化していた。

 壁を伝うように、梁を這うように、そしてついにはドアの前にまで来たのだ。


 怖くて振り返ることもできない。

 でも確かめずにはいられない。

 「今、ドアの向こうで何が動いているのか」

 それを知ることが、僕に残された選択肢のひとつだと錯覚してしまう。


 布団の中で体を丸めながら、僕は声を出してみた。

 「……誰かいるのか?」

 返事はない。ただ、カリカリ、カリカリ、と音が続く。

 何かが確実に、ドアの向こうで待っている気配がする。


 それから何時間も経った。

 時計の針は午前三時を回り、四時になっても音は止まらない。

 眠ることも、目を閉じることもできず、ただ呼吸だけが荒くなる。

 目を閉じれば天井に何かが浮かんでいるような気がする。

 音の起点を探ろうと天井を見上げても、何もない。

 だけど、心の奥では「確かにそこにいる」と知っている。


 そして、気づいてしまったのだ。

 この部屋は、もう僕のものではない。

 音の主に侵食され、僕はただの観察者になってしまった――そんな感覚。

 布団の端から、ドアの隙間から、僕を見つめる何かの視線が感じられる。


 助けを呼ぶべきか。

 それとも知らないふりをして、時間が過ぎ去るのを待つべきか。


 でも、待っても状況は変わらない。

 音は僕の名前を呼ぶように、カリカリ、カリカリと続き、布団を揺らす。

 胸の奥で、助けを求める気持ちと、目をそらしたい気持ちが交錯する。


 そして今、こうしてキーボードに向かって文字を書いている。

 これが、僕の生存確認でもあり、救済でもあるかもしれない――いや、ただの記録に過ぎないのかもしれない。


 耳元で、かすかな囁きが聞こえた気がした。

 ……いや、気のせいだろうか。


 カリカリ、カリカリ。

 今もまだ、ドアの外で続いているのだ。

























助けてくだs

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昨夜、僕の部屋の天井から聞こえてきた「カリカリ」という音の正体を確かめようとしたら、今もまだドアの外で続いているのですが、助けを呼ぶべきか、それとも知らないふりをするべきか迷っている僕の話 チョコしぐれ @sigure_01

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