第7話 僕を取り合う最強ヒロインたち

 授業が終わり校門前へ向かうと、メアはすでに待っていた。


「すまない。待たせたな、メア」


「……」


 わりと謙虚に声を掛けたつもりだが、何故かメアの表情は暗い。


「どうした? 具合でも悪いのか?」


「いや……」


 声も暗い。

 やはり調子があまり優れないのだろう。


 それなら別に無理して今日行かなくてもいいんだけどな。


 というより、体調が万全でないと本当に危険だぞ。これから向かうあの極悪ダンジョンを絶対に侮ってはいけない。何故ならあそこは、この僕ですら気を抜くと地上1階で簡単にお陀仏だぶつになる、超危険なダンジョンなのだから。それに……


 ん?


 メアの視線が僕を捉えていない様子だな。


 いったいどこを見ている?

 なんか僕の後ろのほうをジトーっと見ているような気もするが……


「誰かいるのか?」


 気になったので振り向いてみた。


「!?」


 普通に絶句した。


 油断をしていたつもりはまったくない。

 僕は常に薄く広範囲に魔力のセンサーを張り巡らせ、敵の不意打ちに備えているから人の気配をまったく感じないということは通常あり得ない。


 だが、まるで気づけなかったのだ。


 僕の間合いを完全に支配した領域。

 僕のちょうど真後ろに、はいた。


「今日はで新しいダンジョンへ行くんじゃなかったの? なんで……なんで、カナデちゃんも一緒なの?」


 そう。メアが見ていたのは、完全に気配を殺して僕のあとをついて来ていたカナデのほうだった。


「私も……一緒にシャンバラヤを戦った、仲なのに……ふたりでコッソリ、そんな楽しそうなところに行こうとするなんて……ひどい……」


 内心冷や汗をかいていた僕だったが、それを表情には絶対に出さない。いや、気づいていましたけどなにか?の態度を崩すつもりはない。


「僕とメアは修行をしに行くだけだ」


「えっ? デート、じゃないの?」


 まったく違いますね。

 なにを勘違いしているのやら……


「違う」


「いやでも、一緒に行かないか? くらい、言ってくれても……」


 それは確かに一理ある。


 だが……


「カナデは最近、学園中の男子から次々と声を掛けられて、放課後はなにかと忙しそうじゃないか。いや、せっかく親睦を深められるチャンスなんだ。邪魔をするのも悪いと思ってな」


「そ、それはッ! アークくんが全然、相手をしてくれないから……」


 うつむき、もともと小さかった声がさらに消え入りそうになるカナデ。


 そう。端的に言えば、カナデはシャンバラヤの後から非常にモテ始めている。入学当初は土人などと酷い言われようだったが、今では彼女に近づこうとする男の影が後を絶たない。


 元々、容姿は抜群にいいからな。


 それでいて鬼神のように強いのだから、実力至上主義のこの学園で彼女とお近づきになりたい男子が急増するのも至極当然の話だ。


「そうよそうよ! アークのことは私に任せて、カナデちゃんは学園のイケメン男子とデートでもしてくればいいのよ!」


 何故か鼻息荒く、勝ち誇っている公爵令嬢のメアリーベルさん。

 

 いや、僕は知ってるんだけど。

 メアもシャンバラヤのあとから急激にモテ始めて、ファン化した彼女の推したちから、実家に花束や美術品なんかの贈り物が大量に送られているってことを。


 まぁ、メアの場合は家がいま大変なことと、元々性格に相当難があって告白してくる男子たちをボロのチョンに振りまくっているから、カナデのそれとは趣が少し違う様子ではある。


「わ、わたしはアークくんさえ仲良くしてくれれば、ほかの男子なんて……」


「あら? でもこの間、炎属えんぞく魔法科の2年生、ルーベウス・グレイハワードと一緒にディナーしてたんじゃないの?」


「はっ!? メ、メアちゃん。なんで、それを……」


 あからさまに狼狽えているカナデ・アオイ。


 メアの指摘はどうやら事実らしい。


「グレイハワードも公爵家だからね。ルーベウスはなかなか骨のあるいい男よ。あ、彼の家と私の家、案外仲悪くないのよ」


 子供のガールフレンド事情までツーツーなんだな、公爵界隈ってのは。ん? 僕が知らないだけで、伯爵界隈(僕の家)も実は同じなのか?

 

 貴族怖い。


「あ、あれは! あの男が、メアちゃんの弱点を教えてくれるって言うから……」


「はい?」


「あ、いや……」


 なんかきな臭くなってきたんですが。


「私の弱点ってなに? え、アイツ私の弱みはなんだって言ってたの?」


「え、えーっと……」


「言いなさい!」


「アークくん! 助けて!」


 ちょうど僕を挟む形でメアがカナデを詰めていたから、自然と僕がカナデを守るような位置取りになっていた。


 背中の服を軽く引っ張って助けを求めたつもりだったのだろうが、それお肉つねってるからちょっと痛いんですけど。


「いつからそんな、か弱い乙女キャラになったのよカナデちゃん! アークから離れなさい!」


 メアも瞬足で僕の間合いにいとも簡単に入り、負けじと服と同化したお腹のお肉を引っ張り始める。


 マ、マジ痛いんですけど……


「私はもともと、か弱いですよ……」


「あんな鬼みたいな剣技の使い手が乙女なワケないでしょうが!」


「め、メアちゃんだって、じゅうぶん怪物……」


「誰が大怪獣ゴリラ令嬢ですってぇぇぇ!」


 そこまで言ってない。言ってないぞ、メアリーベル・アシュ・クリストフ。

 てか二人の握力、普通に強すぎて肉が取れそうだ。


 どういう状況だ? これ。

 僕はただ、自身の理想体型へのリスタートを早く切りたいだけなのに。


 もう、この茶番も飽きてきたな。

 時間が惜しい。


「きゃっ」


「ひゃっ」


 僕は僕の肉を弄ぶ手癖の悪い彼女たちの腕を鷲掴み、一気に空へと突きあげる。


「いい加減にしろ。新しいダンジョンへは。これは決定事項だ」


 二人の身体が地上から少し浮かぶくらい僕は腕を突きあげていた。


 彼女たちは身体をウネウネさせながら、奪われた自由を少しずつ理解し始めた。


「え、でも。アーク……」


 明らかに不満そうなメアを御すため、僕は久しぶりにこのセリフを言った。


「二度は言わん」


「や、やったー……」


 ホッと胸を撫でおろすカナデにも一言。


「カナデ」


「な、なに?」


「よろしく頼む」


 黙ってついてきたことに少しは思うところもあったが、冷静に考えればカナデも一緒にいたほうがいいに決まっている。それくらい、これから行こうとしているダンジョンは危険がいっぱいで、戦力は1人でも多いほうが安全性が上がるからだ。


 荒療治で行くダンジョンとはいえ、本当に命落としたら本末転倒だしね。


 それに……


「(トゥンク)ま、まかせといて!」


 カナデもまた、メアと同じで僕の容姿などまったく気にする素振りなく、僕を変わらず慕ってくれている。


 その事実が内心少しだけ……いや、心の底から嬉しくあった。

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