短編 ホラー 小説| 僕らの体験談 ——真夜中の侵入者

H.shousetsu

第1話短編 ホラー 小説| 僕らの体験談 ——真夜中の侵入者

何者かの気配、音や声。

今日まで幾度となく、

感じたり、聞いたりした。



しかし、実際に、

はっきりと“見た“ことはなかった。



深夜2時、ふと目が覚める。


喉の渇きを感じ、

ベッド横に置いてある水を一口飲む。


深呼吸をする。


目が覚めた理由がなんなのか。


その答えが分かるのは大抵、

再び目を閉じ、数分してから。


そう、今からなのだ。


そのまま、眠りに戻ることができれば

特に気には留めない。


——— しかし


瞼を閉じ、いくら待っても

眠りに入ることが出来ずにいると

隣の夫が


「シーーーッ!」


静かにしろと叱りつけるように、

人差し指を立てている。


眠ったまま、

誰かを黙らそうとしているのだ。



——— 前触れ。



説明のつかない奇妙な出来事が

起きようとする時、

前触れのような、

小さな“異変“を感じることが多い。


隣で眠る夫の行動そのものが

奇妙ではあるけれど

それはこれから起きようとしている

もっと奇妙な出来事の前触れに過ぎない。


少なくとも今までの経験上は

そうだ。


私はため息を吐く。


今日もまた、暫く寝させてもらえないと、

確信したものの、

やはり眠りたいので、再び瞼を閉じる。


少しずつ意識が遠のいていく。

すると、突然、心臓が跳ね、

呼び戻されるように「はっ」と

再び目覚める。


「今のは何………」


その数分後。


——— 私はついに“見て“しまった。



眠れずにいる。


部屋を見回しても、普段と何も変わらない。


前方、斜め右、開かれたままの扉。


子供部屋で眠る

息子の声をいつでも聞きつけられるよう、

常に開け放っている、扉の向こう。


足元照明が、廊下全体を淡く照らしている。


中肉、中背、黒髪短髪

猫勢姿勢で

黒いTシャツにパンツ姿の男は

こちらには目をくれることなく

すーっと、ゆっくり横切る。


そっちは、子供部屋だ。

「息子にちょっかいをかけるな!」

叫ぼうとするが、声が出ない。


しかしすぐさま、男は戻ってきたのだ。

方向転換をして、寝室に入ってくる。

私は「出て行って!」と、必死で叫ぼうとし続ける。

男はこちらを向くことはない。

ベッドの前を横切り、

窓の方へと進む。


その、男の姿をした

得体の知れない何者かからは

恨みや愁いといった気配はまるで感じない。

感じるものをひとことで表すならば

それはむしろ“愉快“。だ。

表情は、微笑んでいるようでもある。

男は、

カーテンの端と窓の

隙間から差し込む月明かりに誘われ、

吸い込まれるように

すーっとその姿を見えなくさせた。


私は夫に揺り起こされ、

意識がはっきりする。


あれはなんだったのか。 


“幽霊“と呼んでいいのだろうか。


あるいは、彼は、

どこかの異次元から迷い込んだ、異次元人?

ウルトラマンに出てくるヤプールみたいな?



異次元人 ヤプール


いや、迷い込んだのは彼ではなく

私の方かもしれない。



はたまた だだの夢………。




ようやく、安眠できる。





短編ホラー | 真夜中の侵入者 

おわり


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