2話「「 」の透明」

霊燈山の朝焼けにて。少しずつ昇る陽に顔を顰め、片方の手で顔を覆う。

…………そして、朝焼けの輝きで偶然視えたそれに更に顔を顰めそうになった。

はぁ、全く。と呟く代わりに息を吐く。

現在時刻は体感5時前。…………今日の憎悪は少し目を覚ますのが遅いらしい。仕事が休みであるのなら別にいいのだが。

……休みでない場合の事を考えて一応起こしておこうと思う。

トスン

トスン

トスン

『ぃ゙った" ぁ゙!?』

ドン、と音を立ててしまった。背中から床に落ちたらしく、とても痛い。

『いたい……ひどい……。』







チリンチリンと服の鈴が鳴り、それを聴きながら地上へと降りる。

…………私は問う。この樹は誰のものなのかと。確かに問うたのに、その者は答えなかった。

その者は答えなかった代わりに、此方を攻撃してきた。

後頭で廻り続けている【仙の輪】を前に出し防ぐ。

………………そこで攻撃は止まった。

互いに何も言わないまま、沈黙が流れた。私も目の前の人物も何もしない。



会話は無かったが、意図は何となく理解できた。

この青々と色付きの良い葉を繁らせたこの樹は、種を植えられ生えたものであり所謂世界樹のようなものであるらしい。

確かに、それは護らねばならないし攻撃を受けてはならないものである。

ならば護ろう。私が代わりに護ろう。

………………と、思ったが。私は違うものを護ろう。







そうだ、黒い枝だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る