9章『多人意識(1)』
1話「平穏の青(1)」
朝焼け。
窓から射し込んだ光に唸りながら目を覚ます。
「んん……。」
下の階からゴトゴトと(僅かながらではあったけれど)音が聴こえ、瞼を擦りながら階段を降りる。
〘そろそろ朝食出来るよ。〙
階段を降りてすぐ、近くのソファに腰掛ける。
開けられた窓からの景色に小鳥の囀り。それを見聴きして耳と目を落ち着かせる。
〘今日は元気かな?〙
「…………。」
「ふあぁ……。」
コトン、と音が鳴りほんのりと甘い匂いが鼻に届いた。
〘朝食出来たよ。いつでも食べて。〙
「ん……はぁい……。」
のったりのっそりと未だ寝ぼけ眼なまま歩いてイスに座った。
コツコツと食器が音を鳴らし、のんびりと食事を摂る。
今日の朝食は少し甘みのあるパンと普通のサラダと普通のスープだ。
朝食を食べ終え、またソファに腰掛ける。
〘ミルクいる?〙
「…………欲しい、かも。」
〘じゃあ注いで持ってくるね。〙
「うん。」
ぺたぺたという足音を聴きながら待つ。
〘持ってきたよ。どうぞ。〙
「ありがとう。」
湯気が出ているほかほかのミルクを両手で受け取り、ふー、と息を吹いて少し待ってから飲む。
「…………。」
〘熱くない?大丈夫?〙
「大丈夫。」
〘ならいいね。〙
ミルクを一口飲む度にお腹からぽかぽかとした感覚に襲われる。
今日は図書館で本を読む事にした。
なので私は今、図書館への道を(景色を楽しみながら)歩いている。
天高く昇る太陽に、可愛らしい花々が散るように咲いている草原。レンガ造りの建物は色鮮やかでこれもまた可愛らしいものとして視界に写る。
「あら?青屋根の娘ちゃん。」
(あれ………………あの人)
「あ、おばさん!」
もう少しで図書館に着くところで見覚えのある人に出会った。
(組織名は忘れちゃったけど、どこかの組織の人じゃなかったっけ。)
「久しぶりねぇ。」
「久しぶりですね!」
「今日はどこに行く予定なの?」
(………………あの男共、どこに連れて行くつもりなんだ。)
「図書館に行くの!」
「ふふ、そうなのねぇ。行ってらっしゃい。」
(…………。)
『炎墓…………』
『…………お届け物で〜〜す!!!!』
おばさんの首元に刺さった封筒。そこから燃え、噴き出る鮮血。
それ越しに見えた………………真っ赤に彩られた現実。
あぁ……そうだ。そうだった。
ここにレンガ造りの建物なんて無い。あるのは鉄臭い板でできた建物だけ。
ここに可愛らしい花々なんて無い。あるのは鋭く尖った鉄の針だけ。
目の前にいるのは見知った顔のおばさんではない。いるのはどこかの組織の構成員。
でも、図書館はある。だからもう少しだけ夢らしい現実を見たい。
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