2話「夜通し世界観測」
カタカタと音が鳴る。
カタカタと周囲に音が響いてしまう。
「ねぇ、人形師野郎。」
「何です?」
「下、見てみてよ。」
数m下に広がる、家の明かりが彩る景色_____覗き込んで落下したらどうするんだ、全く。
(まァ、落ちた方が早いですね。)
「じゃ、お先に失礼?」
「む……一緒に落ちましょうよ。」
「…………はいはい。」
2人、ビルの上。足並み揃えて背を空虚に向けて落ちる。
(まるで、投身自殺みたいダネ。)
2人の肉体は速く、ただ勢いをつけて見続けた空と空と地の間にある空虚を通過し地へと叩きつけようとする。
その様はまるで、墜落する星のよう。
その様は墜ちて熱気を失った後の宇宙の石のよう。
昔、目にした真っ赤な空と黒く濁った雲。それに手を伸ばして、空虚とおちたんだ。
ちりちりと髪の先が焼けそうになって、その様を2人で嗤って。
墜ちた下で君とお話をしたんだ。
「ねぇ、空虚。」
「なにさ、人形師。」
「…………うまくいつぁてる?」
「うゅ、うぁくいつぁてう。」
ダメなんだ。思い出せないんだ。だから大切な会話が歪むんだ。
だから大切な記憶が亡くなったんだ。
だから、その思い出を遺すために君を人形にしたんだ。
世界が君を奪ったんだ。だから、世界に君を手放してもらうように“お願い”するんだよ。
だから、君を殺したよ。
だから、君を壊したよ。
だから、君を愛すよ。
だから、君はボクだけを見て生きてほしい。今は、ワタシの隣で■きてほしい。ボクの隣、に座って微笑んで、もしくはワタシを眺めてバカにしてほしいな。
なんでこんな事をしたんだって、なんで殺さなかったんだって、なんで看取らなかったんだって。
君がワタシの望む形で化けて出てきたんだ。嬉しいけど、なんだか怖い。
大好きな君。お母さんみたいで頼りになる君。その母性に甘えて、優しさに甘えすぎて、いないと苦しいんだ。
ねぇ、
瞼を上げようとして、それが出来ない事に気付く。なのに視界は昏いままだ。
「人形師、人形師。」
あの日までの君と同じ、優しい声。
「落ちた後、き■喪ってたんだよ。」
また、甘えてしまいそうになる。
「これは、幻覚なんだろうなって思うんですよ。」
「…………。」
「突然だねぇ、どうしたの。」
「…………君は、死んだのに。なんでワタシの前に」
君は優しい手つきでワタシの頭を撫でる。
「…………そうだった、確かに死んだんだっけ。」
「でもね、■■のお陰でまぁ……死んではいるか。でも、生きてもいるよ。」
「大丈夫……だから大丈夫。化けて出たんじゃない。君にあいに来たんだよ。」
「…………化け物にはなっちゃったけど。」
「化けて出る前から化け物だったし、変わらないでしょ。多分。」
気付けば、ワタシの瞼は上がっていた。
「見せてなかったもんね、能力。」
「能力を見たら、全てが解るよ。」
君はそう言って立った。ワタシの手を握って、引っ張って抱き寄せた。
_________君の身体は人形のものなのに、ほんのり温かい。
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